当日
結局、主催者として何も獲れず当日を迎えた。
なんっっっって悔しいのだ。
だが獲れなかった物は仕方ない。
技量不足は否めないが、
自然を相手にしている訳だしこういう物だ。
半年前の肉なら十二分にあるのだ。
だがどうしても自信が持てなかった。
・・果たして受け入れてもらえるだろうか?
その半年以上前の肉を。
真空パックで冷凍保存とは言え半年も経過した肉・・
どれだけこちらが大丈夫だと伝えても、真空パックなんて普通に考えれば1年以上鮮度を保てると言っても限界がある。
一般家庭ではとてもとても歓迎されないだろう。
あぁ・・どうせご足労頂くのなら、
獲れたての肉を食べて欲しかった・・・
そんな思いが渦巻いていた。
「「明日のお昼に最高品質のお肉を食べたいな。」
なんて望みが叶う事がどれだけありがたいか。」
そんな事は決して言えない。
偉そうにそんな風に上から目線で語るなんて傲慢の極み。
お金と時間と労力を殊更に割く必要なく気軽に肉が手に入る世の中で、
わざわざ自ら望んでやっているのだ。
あくまで自己満足。
単なる趣味を崇高な行為に見せるため、周囲に何かを強いるような真似はしたくない。
それでも、多くの方々と繋がる事ができた今回のイベントに対する不安は募りに募った。
絶対にガッカリして欲しくなかった。
そういう訳で事前の打ち合わせの際、こういう事態になった時は肉の購入を友人にお願いしていた。
きっと自分は自分なりに全力を尽くす。
そうなると、例えどんなに良い意味であっても、結果はどうあれ体力の無い自分は前日までに力を使い果たすに決まっている。
そんな疲れ切った自分が最後の最後で事前に準備できるのは、近所で最低限の備品を購入する程度だろう。
無理してバーベキューそのものが台無しに・・という最悪の結末だけは避けたい。
こういう時は素直に人を頼らねば。
去年知り合った農家の友人は快く受け入れてくれた。
今年知り合った、BBQ会場となる場を提供したいと申し出てくれた友人も了承してくれた。
毛革なめしの友人も準備万端だ。
インターネットで知り合った偶然の出遭い。
その偶然の積み重ねが、ジビエBBQという何の気なしに思いつきおっぱじめた自分の願いを支えてくれている。
満足のいく猟果にはできなかった。
でも、それならそれでその時にできる事を。
こちらの不安を察してくれていたのだろうか。
友人がエゾシカ肉のソーセージを準備してくれていた。
カラスやヌートリアを食べた事はあるが、北海道にしか生息していないエゾシカなんて自分ですら食べた事が無い。
ニホンジカと味わいが異なるのだろうか・・
行者ニンニクとエゾシカいう、北海道の山の幸が入ったソーセージを食べられると思うと、
なんだかちょっと、ゴールデンカムイの世界に踏み込んだ気がしてワクワクした。
そう自分が思うのなら、きっと少なからず友人達もワクワクしてくれるのでは・・
そんな狙いもできた。
明日の天気予報は若干の強風。
そんな程度なら大丈夫だ。
雨や雪が降ったって開催に問題がない事は確認済み。
悪天候時は屋内対応可能なありがたい場所なのだ。
きっときっと大丈夫だ。
それだけの事前準備はした筈だ。
そう思う事にして、浅い浅い眠りについた。
だから先に結果を言うと、当日は大成功だった。
ただの笑顔
・・とはいえなんであれ不安じゃい!
そんな気持ちで早朝に起きた。
眠れんのんじゃ!
ジビエを楽しみに待っていてくれている(であろう)友人達の到着は11時。
その1時間半前の9時半を少し回った頃に会場に到着した。
運営側として、この日まで限りある時間を割いて助けてくれた、農家や場所を提供してくれている友人達と挨拶を交わし、和やかに準備が始まる。
毛革なめしの友人もすぐ到着する。
到着早々、
「喜んでもらえるか自信がねーです・・」
そう泣き言を発してしまったが、どう足掻いたってもう後には引けない。
持参した3kg程の猪肉と共に、友人2人には食材の準備を任せ自分は炭の火熾しを担当した。
持参した新聞紙を1枚、くしゃくしゃに丸めて一番下にセット。
その上にちぎった段ボール、その上に小さな炭。
着火剤もあるので使わせてもらう。
徐々に大きな炭を積み上げていってから、チャッカマンで点火した。
バーベキュー開始までまだ1時間以上もある。
少し早過ぎた気もしたが、一番大きな炭は20センチ以上の物もあった。
参加して頂ける方の中には、仕事の合間の休憩時間を利用してくれる方もいる。
いざ食べようという時にちょっと待って下さいなんて絶対に言いたくない。
今日ばかりは自分の出費がかさんでも全然構わない。
ジビエがお気に召さなくても、牛肉や豚肉をめいっぱい食べてから仕事に戻って欲しい。
炭の量は十分あるので早々に熾火を作った。
結局、巨大な炭に火が点き落ち着くまでに1時間かかった。
良いじゃん良いじゃん良いタイミングじゃん。
そう自分に言い聞かせる。
少しだけ遅れて毛革なめしの友人も到着し、いよいよ作業は加速。
その後は友人達が続々とやってきた。
牛や豚の購入分を含めると肉だけでも5kgを越える。
野菜も沢山ある。
場を提供してくれる友人は元料理人。
農家の友人が育てた野菜をサラダやスープにすると同時に、米も炊いてくれていた。
準備万端。
いちいちこちらの堅苦しい挨拶なんで聞いて貰う必要はない。
もう何でもいい楽しい時間を過ごしてもらいたいという気分になってくる。
さっさと猪の肉を焼き始めた。
「絶対にウケるって」
そう言って貰えたが、実際はどんな評価を受けるのだろうか。
それが気になって仕方がない。
火熾し充分の炭の上で肉にジュワジュワと火が入り、いよいよ実食となった。
あああ大丈夫だろうかそれ半年前のお肉ですよ?
「・・おいしい!」
「臭くない!」
「クセがない!」
「歯ごたえがある!」
皆、猪をニコニコしながら食べてくれている。
心の底から安堵した。
すごく嬉しかった。
そして全身全霊で見栄を張りながら言った。
「あぁ~そうですか良かったですぅ~あぁ~牛っておいしいなぁ~俺は猪なんて年中食べ慣れてるからなぁ~!」
ほ・・ほーらね!
だから言ったじゃん!!
美味しいって・・そーゆったじゃん!!!
良かった・・皆で食べているのは巨大なメスの猪。
槍を使うなんて危険すぎると、銃の使用を迷わず選択する程のビッグサイズだった。
50~60kgはいつもの事だが、この個体は100kg近くあったのではないかと思う。
師匠と2人で共に全力を出し、何度も何度も休憩を挟みながら運んだ位だった。
肉のおすそ分けも15kgはあげた気がする。
その日はほとんど同じサイズのオスの猪も獲れて、2頭の運搬と解体で自分は完全に完全に腰を痛めた位の代物だった。
・・あの時しんどい思いをしておいて本当に良かった!
Amazonだか楽天だか忘れたが友人が準備してくれていた蝦夷鹿のソーセージも喜んでもらえた。
個人的にもクセがなくてとても美味しいと感じた。
兎に角、食べやすい。
エゾジカって全てこうなのだろうか?
良くも悪くも全くクセが無くて本当に美味しい!
牛も豚も当然美味しい!
友人の1人が差し入れてくれた自家栽培のレモン。
市販の物なら酸味ばかりが先走って使うのは果汁だけにしたい所だが、
白いワタや皮の部分も含めて信じられない位に甘味が強い。
これは脂の乗った猪肉の部位や豚肉を食べる際に塩と一緒に食べるととても合う。
思わず、
「これはスイートレモンですか?」
と尋ねる。
「わがんね。」
との事。
んだらば、わがんね。
でも新しい発見だった。
会の最中、仕事の合間を縫って来てくれた友人も大絶賛。
というか彼女が一番、ぶっちぎりで大絶賛。
後に頂いたコメントをほぼそのまま載せる。
「今日は本当に美味しいお肉ありがとうございました😊
仕事中も吐息(胃から漏れ出た息💨)がジビエのいい匂いで幸せでした😍😍
胃もたれすることなく、たっくさんお肉をいただき、食べた後の香りも楽しめて本当に幸せでした👏👏👏
牛肉がたくさん食べられないので、久しぶりにあれだけのお肉を一気に食べました😊😊
本当に感謝です🌸
Nさん(運営の1人)がニコニコ楽しそうにお肉を焼いていたので、さらに幸せ度アップ⤴️でした👏👏
私はあの肉の中毒になりそうで、ドキドキしてますよ、、、、
本当に美味しかったです👏👏👏」
そーなんだよ!
(食べ慣れ過ぎて完全に忘れてたけど)猪の脂は消化し易いから胃もたれしにくいんだよ!!
だからゆったじゃん!!!
サラダもスープも精米したての炊き立てご飯も最高だ。
師匠と2人で肉を手に入れてほくそ笑むのも好きだがこういうのも悪くない。
悪くないどころか・・・・いいぞ。
これはいいぞ楽しいぞ!
その少しの積み重ね
豆の選定から焙煎までこなす友人の1人が淹れた最高に美味しいコーヒーを皆で頂く。
珈琲の良い香りがホワワワと漂う中、美味しい淹れ方についての講義が遠くからホワワワと聞こえてくる。
前日の天気予報のような強風など一切ない穏やかな日差しの下で。
そしてそのコーヒーを堪能しながら自分はまた別の友人(撮影のプロ)と、
「やっぱりアクションカメラを使った方が狩猟の魅力が伝わりますかね?」
「どうやったらジビエ料理が綺麗に撮れますかね?」
「少しでも鳥獣被害を減らしたいんです。」
そんな事を語らいあう。
2時間・・3時間・・4時間経っても・・
あちこちで延々と、狩猟やジビエに関する会話が続いている。
まったりしていたら毛革なめし講座が始まった。
友人が持ってきてくれた作成中の毛革を、参加者達がストレッチ(引き延ばし)する。
動物の皮がどのような過程を経て人が使う革に至るのか?
その一手間一手間を体験してもらう度に歓声が上がる。
食べるだけではなく、
『手で触れる事から狩猟の世界を識る』
こんな事まで叶うなんて。
『自ら命を奪う事で世界を識る』
こんな自己満足の価値観しか持っていなかった、非常に狭い視野の自分には到底無理な芸当だ。
結局、昼前から始まったバーベキューが終わったのは、薄暗くなり寒さを感じ出した夕方頃。
ほぼ丸1日、皆でワイワイ楽しい時間を過ごしていた。
あの時も今も思う。
あれ?
これって最高じゃね?
最後の挨拶。
こういうのは苦手なので個人的にはさっさと終わらせてしまいたかった。
でも結局あれこれ喋ってしまった。
なぜ始めたのか?
何がしたかったのか?
その点を伝える力と配慮が、発案時から最後まで語彙から何からまるで足りていなかったが、
正直に言ってしまえばそれでも全然良かった。
準備期間中に使った全ての時間と言葉よりも、この1日でそれ以上の物が伝わる事を識ったからだ。
未熟なまま始めて本当に良かった。
こちらが学んだ事の方が圧倒的に多い。
それがそのまま今回のイベントの結論になった。
「食べて美味しいって思ってもらえるのが一番大事だって良く分かりました。」
正直にそう言った。
持続可能性・・
フードロス・・・
鳥獣被害を減らすため・・・・
そういった意識が自分には強過ぎたと痛感した。
いきなりそんな事を言い出したって伝わらない。
まずはただ、
「美味しい。」
そう思って貰えたら良かったのだ。
美味しいから、食べる。
美味しく食べるから、ジビエに興味を持って貰う事が出来て少し消費が増える。
ジビエの消費が少し増えればやる気を出す猟師が少し増える。
そうすれば、いつかは少し鳥獣被害を食い止める事に繋がる。
難しい事を考える前に、ただ目の前の人達がどうすれば笑ってもらえるかに注力すれば良かっただけなのだと思う。
次の1歩も、本来の目的からすれば僅かな物だろう。
だけどその1歩の先にある物は、その1歩の元となった笑顔がもたらしてくれた結果なのかもしれない。
もうどっちでも良い。
それが笑顔ならどっちでも。
その少しの笑顔の積み重ねが、きっと良い方向に導いてくれる。
本来の目的はその都度変えていけば良い。
やって良かった。
さぁ頑張ろう。
第2回の開催に向けて。
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