【ジビエ料理】鹿ハム改

料理
試作2袋目はなんとかうまくいった

解体の練度

鹿が獲れる。
なんかもう凄い獲れる。

先日、猪と鹿を2頭ずつ仕留めたと思いきや、その後の1週間で更に2頭の鹿が罠に掛かった。
短期間で何頭もの鹿を解体する事で、作業の精度やスピードが上がっていく事が自分でも良く分かった。
内臓を取り出し、片側半分の皮を剥ぎ、前脚と後ろ脚を取り分けていく。
それが終わったらもう片側の皮を剥ぎ同様に分ける。
最後に腹の内側にある内ロースを2本と、背骨の両サイドにある最高級部位である背ロースを2本切り出す。

「随分と手際が良くなったなぁ。」
人を滅多に褒める事の無い師匠からそう言われるほど、作業効率が向上した。
初年度は、
「包丁がうまく使えるならナイフも似たような物じゃないのか?」
と何度もからかわれていたのに。
ちょっとした所で認められるようになるのは嬉しい物だ。

上が背ロースで下が内ロース

そのお陰か、師匠が別の解体方法にも挑戦したいと言い出した。
まず、皮をまるごと全て剥いでしまってから肉を取り分けていく方法だ。
Youtubeで見たらしい。

山の中であっても、仮に自宅の庭に持ち帰ってからであっても、解体時はどうしても肉に獲物の毛が貼りつく。
その際、肉に雑菌や泥が付着してしまうため、肉と皮を交互に触れる事は可能な限り避けたい。
そのための対策として、最初に皮を剥いでしまうと言う訳だ。

なぜこれまでそうして来なかったかと言うと、最初に内臓を取り出す方法にも、それはそれで良い点があるからだ。
メリットは大きく2つ。
1つ目は、内臓を早々に取り出す事で体温を急激に下げる事ができる。
鹿であれ猪であれ、罠に掛かれば暴れ回る。
そこで止め刺しをしたまま放っておくと、高温状態が長時間保たれる事で肉がどんどん加熱される。
過剰な表現でも何でもなく、肉が茹で上がってしまって白くなるのだ。
それを防止する事ができる。

2つ目は匂い対策。
死んだ獲物の内臓には、食物や排せつ物が詰まっている。
そのままの状態で1時間も放っておくと、体内で発生した腐敗ガスでお腹がパンパンに膨らむ。

ガスは当然、不快な匂い。
その匂いが肉に移ってしまっては全てが台無しになるので、早々に取り出してしまいたい。
また、お腹がパンパンに張った状態では、内臓の取り出し難易度が上がる。
腹圧でギチギチに押し込められていた内臓が更に膨らむため、ナイフの刃が少し触れただけで爆発する。

一度、それをやらかしてしまった事がある。
胃袋にナイフの先端が触れた瞬間だった。

バン!
ブシュウゥゥゥ—!!!

自分に向かって吹き付ける生温かいガスの臭いこと臭いこと。
「オエエ~くっさぁ!」
「おまっ・・!お前!だからあれほど注意しろって言っただろ!!」
ごめんなさい。

幸い、飛び出してきた内容物が奇跡的に肉にほどんと付着しなかった為、どうしようもない程の被害は出なかった。
だが、当然ナイフは交換。
肉を毛ごと大きく削り取る事にもなり相当勿体ない事をした。

今回、師匠が皮を丸ごと剥いでみると言い出したのは、自分の作業速度が上がったからだろう(そう思いたい)。
一気に皮を剥いでしまう事で肉と毛を交互に触れる回数を減らし、雑菌等の付着を減らす。
内臓はその後で取り出す事になるが、作業速度が上がったので肉が茹で上がる事も匂いが移る事もない。

仮に罠の見回り開始早々に獲物の止め刺しをする事になり、残る罠の確認を優先さたいのであれば、まず内臓だけは取り出してしまう。
放熱させられる上、相当軽量化されるため運搬が容易になる。
見回り後半に解体する事になるのであれば、皮を一気に剥いでしまう。
このように、今では肉の鮮度を保ったまま、状況に応じて解体方法を選択できるようになった。

どんどん増えていく鹿肉。
さて・・この大量の肉をどうしてくれよう?

発色剤

毎年、ハムを作っている。
全ての肉を冷凍庫に保存していくと、あっという間にスペースが埋まってしまう。
塩や胡椒をすり込んだ肉を冷蔵庫で1週間ほど熟成させ、その間に冷凍庫の肉を消費。
ハムが完成する頃には冷凍庫に若干のスペースが生まれるのでそこに収納している。

ありがたい事に、最近ではジビエ肉に興味を持ってくれる友人が増えた。
冷蔵室・冷凍室が埋まるまでの時間が相当延びたが、それでもこれからどんどん鹿が獲れればすぐに以前のような状況になるだろう。
保管スペースが半分埋まった段階で、いつも通りハムを仕込む事にした。

毎年、鹿ハムを作っていて気になっていた事があった。
なんかちょっと黒っぽくて色味が悪く見えるのだ。
鹿肉は鉄分を多く含むので、完成時点で断面が少し黒ずんでいる。
切れば豊富な鉄分が酸素と反応しどんどんピンク色になるのだが、それにも限界がある。
最低限の加熱は必要だ。
だが、加熱すればする程、黒くなってしまう。

見栄えは美味しさに直結する。
市販品レベルとまではいかなくても、どうせやるなら今までより美味しいジビエハムを作りたい。
これまでは市販の塩と胡椒をすり込んでいたが、どうやってハムが作られているのか調べてみる事にした。
そこで発色剤という物を見つけた。

なぜ発色剤をハムに使うのか?
そのメリットは多い。

1.色味の保持
発色剤により肉の色素が固定される事で、加熱時の変色を防ぎ赤やピンク色を保つ。
ヘモグロビンやミオグロビンの色素が維持されるのか。
・・ふーん。
『発色』という単語からして、てっきり元々の色素を変化させる物かと思ったが保持なのか。
それなら全然、不自然じゃないな。
肉に含まれるのはミオグロビン。
運動量の多い野生鳥獣には豊富にミオグロビンが含まれているので、絶対にジビエ肉でも・・というかジビエ肉こそ有効な筈だ。

2.ボツリヌス菌の抑制
自然界において最悪レベルの強毒を産生するボツリヌス菌は、たった1グラムで1000万人が死亡すると言われる。
加熱されていないハチミツには、その毒素が含まれる可能性があり、1歳未満の乳児に与えてはならない事は有名だ。
大人であれば、菌が体内に入っても腸内細菌が倒してくれるが、その環境が整っていない乳児では対抗できず、ボツリヌス症を発症する危険がある。
ボツリヌス菌は熱に120℃で4分加熱しなければ死なないという強い耐性を持つ。
発色剤は、その恐ろしい菌そのものの増殖を抑制してくれるようだ。

3.独特の風味
獣臭さを消し、特有の香りを生み出してくれるのだそうだ。
そうかそうか。
市販品のハムの香りは発色剤を使ったからこそ出来たものだったのか。
てっきり何か添加物を使って香りを作り出していると思っていた。

・・いいじゃん。
いいじゃん発色剤!
獣臭さを消されては、鹿というジビエ肉の個性が消されそうな気もするが、発色剤を用いた場合、鹿ハムはどのような香りを生むのかすごく気になる。

よし。
発色剤を買ってみよう!

買って良い物悪い物

・亜硝酸ナトリウム
・硝酸カリウム
・硝酸ナトリウム
の3種類が日本で許可された発色剤のようだ。

混ぜなきゃいけないのか?
分量はどれ位だ?
ひとまずAmazonで検索してみた。

『酢酸ナトリウム』
『次亜塩素酸水』
『亜硫酸水素ナトリウム』

あれ?
なんか別の成分ばかり出てくる。
全然お目当てが出てこないぞ?
他の2種も・・出てこない。
再び亜硝酸ナトリウムで検索するとWikipediaの記事を見つけた。

『毒物及び劇物取締法で劇物に指定。』
『致死量は約2gと言われる。』

ゲェッ!!!

そそそんなにヤバい成分だったのか。
これは素人が簡単に手を出してはいけないな。
これまで通り塩をすり込んで作るしかないのか?
他に使用・購入可能な成分はないのか?
いや国内で許可されているのは3種類しかないようだし・・
色々と調べてみる内に、ある疑問が沸きあがった。

「(そもそもどうやって昔の人達はハムを作っていたんだ?)」

もう1度、発色剤で調べ直す。
そして、大山ハムのサイトを見つけた。

~岩塩による発色現象~
『昔は、勿論「亜硝酸ナトリウム」が添加物として加えられていたわけではありません。

岩塩をハム・ソーセージ作りに使用すると、おいしそうな色になり、風味がよく、食中毒が起こらないことが経験的に知られていました。近年の研究により、岩塩の不純物の中に、「硝酸塩」が食肉中で亜硝酸塩になり、発色現象にかかわっていたことがわかり、今日では食品添加物として亜硝酸塩が使われるようになったのです。

岩塩を使えば、「亜硝酸ナトリウム」はいらないように思えますが、そうもいきません。
天然の成分は、成分が安定しません。よって、保存食としての安全性確保には不向きなのです。』

なんて勉強になるんだそーか岩塩か!
成分が不安定とあるが一般人には岩塩しかない!
すぐに安くて量の多い岩塩をAmazonで購入した。

岩塩の力

ヒマラヤ岩塩が届いたのですぐに味を確認する。
普通の塩より塩味がまろやかで角がない。
つまりごく普通の岩塩だ。
発色剤としての効果を期待して購入したが、これならば色だけでなく、味の面でも良い効果をもたらしてくれそうだ。

これまでのハムの作成工程に倣い、ミルで挽いた黒胡椒と岩塩をすり込んでいく。
肉の表面全体に薄く岩塩をまぶし、後は冷蔵庫で寝かせる。
浸透圧で肉からドリップが出てくるので、定期的に拭き取りつつ様子見をした。

水分が溢れてくる

1週間が経過した。
・・なんか今までと変わらないような?
これで何の効果もなかったらすごい無駄な出費なんですが君大丈夫?
塩の入り具合を見るため少し切り取って焼いてみる。

・・あら?
おいしい!
いつもなら数時間は水に浸漬して塩抜きするのに既に美味しい!
これならそのまま加熱してもよさそうだ。
肉を2袋の真空パックに分けて梱包し、しばらく放置。
中心まで熱が入り易い常温に戻してから、1袋目を75℃のお湯に漬け込んだ。

1袋目

さてどうなるかな?
豊富に含まれる鉄分との相乗効果で真っ赤っ赤になっちゃったりして。
15分に1度、お湯の温度を計測して、適温に沸かし直しては漬け込みを繰り返す。
正直、超めんどくさい。
けれど、超ワクワクする。
厚生労働省の指示では肉の中心温度が75℃で1分、63℃なら30分の加熱が必要とある。
扱っているのは野生のジビエ肉。
この辺は注意して、いつも通り75℃で1時間にしておいた。

1時間が経った。
待っている間に不覚にもお酒を頂いてしまったので、湯沸かしと浸漬を繰り返す間に、ハムより前に自分が出来上がってしまった。
よし。
いつも通り順調だ。

温度計を肉に突き刺し最後の確認。
よし。
いつも通り順調だ。
期待と不安を抱えたまま、切ってみる事にした。

スイスイスイ・・さぁどうだ?

75℃で1時間

改善

結論から申し上げます何も変わっておりませんでした。

「ウフフフフ・・」
思わず自暴自棄の笑みがこぼれる。
あれェ!?
本当に!!??
むしろ今までより黒っぽくありません事ォ!!??

がっかりしながらハムを口に放り込んだ。
岩塩の丸みのある塩味の事をすっかり忘れていた。
想定外の効果に今度は喜びの笑みがこぼれる。
あれェ!?
本当に!!??
すっげーうまいじゃん!

でも・・

なんだよもう~
もっとビックリする位に鮮烈な赤やピンクを想像してたのに。
加熱温度が高すぎたか?
これでも十分安全な筈だと、2袋目の加熱は68℃前後で試してみる事にした。
時間は変わらず1時間。
さてこの作業に意味はあるのでしょうか。

・・計2時間が経過した。
おじさんはもう完全体だフラフラだ。
朝から精肉作業と並行していたのでいい加減眠い。
湯から出してすぐに切ってみた。
すると中からピンク色の肉が出てきた。

「やっ・・たぁ?」

やはり加熱温度を下げると色鮮やか、ピンクはピンクだ。
ただ・・通常の塩を使った時と見た目が変わらない。
味は良かったが課題が残った。
うーむ。

風呂で茹で蛸になりながら茹で鹿の事を考える。
「(切ってそのまま食べられるという事はつまり・・岩塩の使用量が少な過ぎたか?)」
「(もっと増やせば発色成分が多く浸透して目に見える効果が出るかもしれない。)」
「(味が良くなったのは思わぬ副産物だったよな。)」
「(他に改善できる要因は無いか?)」
「(イヤやっぱり今度は岩塩の量を増やしてみよう。)」
「(次こそはもっと良い色を出せると良いな。)」

次にいつ鹿が獲れるかなんてまるで分かった物では無い。
それなのに、捕らぬ鹿の皮算用をしつつ深い深い眠りについた。

あーつかれためんどくさかったたのしかった。

【ガス屋の窓口】

まろや鹿

料理
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エセ神戸は小食です意外ですねでもSNSは食い物ばかりアップしています。

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