初めての猪①

狩猟
猪チャーシュー豚骨ラーメン

猪が食べたい

鹿を3頭仕留め、
これから先の狩猟との向き合い方に一定の目途がついた。
迷いながらでも、やっていこう。

肉は師匠と山分け。
冷凍庫は当然の事、
冷蔵庫も肉で埋め尽くされる。
日々、肉を食べながら鹿ハム作りに精を出した。
友人や家族が望めば喜んで譲った。

夏はハムで冷やしか中華

自分が今している行為は、
先人達がこれまで当たり前にしてきた暮らし中で得られた恩恵の上澄みを啜る程度の物だろう。
その奥底に静かに沈む苦労までは分からない。
それでも、生命の循環や持続可能な社会の中にいるのだという意識が強くなった。
命を自ら奪う事で、
命を自ら手に入れる喜びを知る事ができた。

その喜びは自分にしか分からないが、
送った肉を美味しいと言って貰えたら、
ただもうそれだけで嬉しい。
自分が食べる分以上に丁寧にトリミングし、
なるべく良い部位を送った。

次第に新たな欲求が沸きあがる。
次は猪が食べたいな。
そして猪も送りたいな。

猟場に残る足跡や糞の痕跡からしているとは思うのだが、
鹿と比べると捕獲難易度が遥かに上がるようだ。

猪は嗅覚が犬並み、またはそれ以上と言われる。
常に大地の匂いを嗅いで餌を探し回るので、
仕掛けられた罠の金属臭に敏感に反応し避けるらしい。

狩猟の本を読んでいてよく見かける対策は、
木の皮を煮出した液体に罠を漬け込んだり、
川にさらしたり土にして金属臭を取り去るといった方法がある。

しかし、師匠はそういった対策を取らない。
「適切な位置に仕掛ければ猪も鹿も獲れるぞ。」
「だってそれで獲ってきたからな。」
そういう方針だからだ。
実績がちゃんとあるのなら、
せずに済む作業はしないに越したことはない。
師匠を信じよう。

次が鹿でも嬉しいが、猪だったらもっと嬉しい。
期待が高まった。

ある日のLINE

仕事の休憩時間中に猪の事を考える。
「(・・これまでの鹿のように、うまく仕留められるのだろうか?)」
捕獲難易度が鹿より上回るというのは、
罠に掛けるのが難しい、
という意味だけではない。
掛かった後の止め刺しが遥かに危険なのだ。

2019年。
山梨県山梨市牧丘町杣口の山中で狩猟中の男性が猪に足を噛まれて死亡した。
噛まれたのはふくらはぎと尻の二か所。
市内の病院に運ばれたが、
出血多量で3時間後に帰らぬ人となった。
2021年。
兵庫県洲本市池内の山中で狩猟中の男性が猪に100メートル引きずられて死亡した。
電気槍(2本の槍を獲物に刺し感電させる)を用いるも猪が暴れ足に掛かっていたワイヤーが切断。
男性はふくらはぎを噛みつかれたまま100メートル先の用水路に引きずり込まれた。
猪は噛みついたまま足を離さないため通報。
かけつけた消防隊の放水により追い払われたが、
男性は既に心肺停止となっていた。
搬送先の病院で帰らぬ人となった。

復興庁の資料によると、
獣害対策のために仕掛けた罠に掛かった猪を駆除しようとして、
反撃にあい亡くなった農家の方もおられる。

だから師匠も自分も、相手が鹿であろうと猪であろうと、
獲物が罠に掛かった際は、ワイヤーが脚のどの位置に掛かったのかをすぐ確認する。
ワイヤーが脚の先端を締め上げていた場合、
暴れた際にすっぽ抜ける可能性が高いからだ。

なんとか無事仕留めた後も、
罠の損耗具合をその場で確認、
少しでもワイヤーにねじれやほつれがあれば遠慮なく交換する。
油断すれば死に直結する。
猪相手にうまく槍を操る事ができるだろうか?

まぁどうせまたビビるんでしょうな。
こればっかりは繰り返し経験を積むしかない気がしていた。
するとある日、勤務中に師匠からLINEが届いた。

写真が送られている事は確認できたが勤務中。
中身を確認できない。
しかし何があったのか気になる。
勤務中。
気になる。
勤務中。
気になる!
師匠のせいで仕事に支障が出た。
ならば排除せねばならない。
トイレに向かった。

良い事かもしれないし、悪い事かもしれない。
超絶くだらない大したことない事かもしれない。
便座に座りLINEを開いた。
現れた写真には、
山の中で槍を持った師匠と、
対峙する背の低い茶色い獣が映っていた。
そして写真の前にメッセージが入っていた。
『いのししとれたわ』

「(あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!)」
トイレの便座に座ったまま、
心の中で絶叫するおっさん。
その後は仕事にならなかった。

ドアノブ

ついに猪が獲れた良かったー

という気持ちがないではないが
『おめでとうございます。』
なんて気には全然なれない。
自分もそこにいたかった。
自分が猪と立ち合って仕留めたかった。
仕事終わり、
ガックリしながら帰宅中に師匠に電話した。

「おう。お疲れさん。」
「・・おめでとうございます。」
「やっぱりおったなぁ。
ま、お前は残念だったな。」
ざまぁみたいな感情がこもっている気がするのは気のせいだろうか。
「腹(臓物)だけ出してきて今は冷やしてる所だ。」
「僕も見たかったです。」
「仕方ねぇ土日しか参加できねえんだから。」
「解体手伝えなくてすいません。」
「あーあ。脂が乗ってるから大変だ明日は。」
くっ
明らかな余裕を感じる。
「ま、肉は分けてやるからよ。じゃあな。」
くっ
うれしい。

しかしやはり悔しい。
なんという機会損失。
貴重な経験を得られなかった。
・・だがどうしようもない。
師匠の言う通り仕方ないし、
そもそも罠の見回りをしてくれているのだから感謝しなければならない。
トボトボと歩き帰路についた。

アパートのドアを開けようと鍵を準備。
すると妙な物が目についた。

ドアノブにビニール袋が掛かっている。
暗闇の中、
明らかに何か大きな物体が入っているビニール袋。

一体だれが?
なにこれ?
こわっ。

そう思った後で猪の事を思い出したが解体は明日だ。
猪肉のワケが無い。
誰かに見られてるんじゃないか?
不安になり周辺を警戒した後、
おそるおそる袋を持って中を確認した。
重い。
しかし暗くて中身が分からない。
ドアを開け部屋の中に入り、明かりを点灯し再確認した。
そして小さく叫んだ。
ビニール袋の中には、
猪の心臓とレバーが丸々入っていた。

あ・・・・あの野郎!!!!!!!!!!!
ありがとうございます!!!!!!!!!!

猪のハツの薄切り

清々しい朝の清掃

その日の晩、猪の心臓とレバーで焼肉をした。
これも立派なジビエ料理だ。

鹿でもそうだが、
内臓は傷みやすい部位の為、最初に食される。
肺や食道、腎臓に腸。
そのような部位は食されない事が多いが、
心臓や肝臓を好む猟師は多い。
希少部位でもあり美味。
まさに猟師の特権なのだ。

鹿も猪も心臓の味の違いは大差ないと感じる、
それが心臓の味に対する正直な感想だが、
レバーはやはり鉄分っぽさが猪の方が若干弱めで食べやすい気がする。
鮮度抜群という事もありとても美味しく頂けた。

厚生労働省による鉄分の一日の推奨摂取量は
成人男性・・・7.0~7.5mg
成人女性・・・6.0~6.5mg
となっている。
豚レバーでも100gあたり鉄分は10mgを越える。
心臓1個なら大した事は無いが、
肝臓は両手ではとても足りない程に大きく重い。
食べ過ぎは控えて大部分は冷凍した。

帰宅中に電話した時に一言言えやとは思わない。
悪ふざけでもあり配慮でもあったから。
素直にLINEで感謝を伝え、
心地良い眠りについた。

翌朝。
心地良い寝覚め。
だが残念ながら今日も仕事だ。
服を着替えて出社の準備をした。

早く週末がこないかな。
何も獲れないかもしれないし獲れても鹿かもしれない。
でも猪の可能性だってある。
次こそ自分が仕留めたい。
解体を学び、
そして今度こそ猪の肉を手に入れるのだ。
普段とは違い、
前向きな気持ちでドアを開け一歩踏み出した。

・・?
コンクリートの床にシミが見える。
大きな赤いシミが見える。
シミは長く点々と続いている。
なにこれ?
数秒考えて理解した。
血だ。
ビニール袋が破れていたのだ。
長く続く大きな血痕。
完全に犯行現場だった。

「(あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!)」

清々しい朝、
大慌てで床中に水を撒いて血を洗い流した。
遅刻した。
師匠のせいで仕事に支障が出た。

厚切りで焼肉

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エセ神戸は小食です意外ですねでもSNSは食い物ばかりアップしています。

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