師匠との出会い

狩猟

猟期前

「もう一人でやります。」

猟期直前、会長にそう言うしかなかった。
探しているから待てと言われたので素直に半年待ったものの、
共に山に入ってくれる人がどうしても見つからない。
猟友会の中に罠猟をされている方が少数ながらおられる事は聞いていた。
しかしその方々は既に組んでいる相棒がいた。
自分の周りで行われている罠猟は基本的に多くて二人行動。
どう足掻いても空きがない。
「一人で始めても絶対に獲れないぞ。何より危険だ。やめておけ。」
会長の言い分はよく分かる。
しかしそうはいっても、こちらとしては素直にハイソウデスカとは言えない。
罠猟の免許を取得してから数えれば丸々一年経ったのだ。
税金等の狩猟に必要な諸々の費用は今年も払った。
それなのにその先もずっと何もせず二年連続でじっとしているなんて耐えられなかった。

罠自体は通信販売で取り寄せ可能な事は知っていた。
オーエスピー商会。
鹿や猪といった大型獣を捕獲するための罠を販売している専門店だ。
どれを買おうかと調べてみると、安い罠でも1セットで5000円以上。
1シーズン中に仕掛けて良いとされる罠の数は一人で最大30個まで。
それはつまり、それ位の規模で仕掛けないと中々捕まらないという事だ。
30個買ったら15万以上・・
そんなに買う予算は無くせいぜい5セットが限度。
何も獲れない可能性が非常に高い。
というか今から注文してもどれ位の日程で届くのか分からない。
「(・・もう肉を買った方が早いのでは?)」
そういう思いも出てくるが、わざわざ免許まで取って1年待ったのだ。
雪山調査で見た足跡がずっと忘れられない。
このままじっとしていては彼等の足を捕らえ捕獲し胃袋へ届く可能性は真のゼロだ。
何もせず終わってたまるか。

今でこそオーエスピー商会で販売されている罠の解説をそれなりに理解できるが、
どれだけ考えても当時は違いがサッパリ分からなかった。
数日を費やし悩んだ末、結論が出た。
「ま!いっか!さっさと買って始めちまおう!」

ある日の山の風景

ある日のコメダ珈琲

仕事から帰宅後、罠を注文しようとしていた矢先に会長から連絡が入った。
「1人、罠猟のベテランがいるから紹介するよ。〇日の×時間にコメダ珈琲においでよ。」
年に数える程度とはいえ、会長と一緒にお酒を飲む仲になった今なら猶更分かるのだが、
やはり優しい方なので方々手を尽くして探してくれていたに違いない。
人に恵まれた。
ただあの時は本当に仰天した。
どんなタイミングだよ。

待ち合わせ予定日を迎え、喫茶店には予定時刻の10分前に到着した。
会長が見当たらないが待っていた方が良いのだろうか?
しかし、入口で合流して喫茶店の中に入り
「満席です。」
ではなんとも間の抜けた話だし失礼に当たりそうだ。
先に入店して広めの角の席を確保し、その旨を連絡した後はただじっと待つ。
緊張してしまい、まだ誰もいないのに背筋を伸ばして10分程待っていると会長から到着の連絡。
程なくして会長と、その後からもう一人が入ってきた。
それが師匠との出会いだった。

まずは自己紹介。
まだ数回しか山に入っておらず、しかもただウロついてきただけのズブのド素人である事を伝えた。
きっとめんどくさかったのだろう。
初対面の師匠(当時はまだ弟子ではないのだが)はあまり乗り気でないように感じた。
だからとにかく罠猟をしたいのだと延々とアピールした。

「魚を釣ったら捌いて食べるじゃないですか。だから肉も自分で獲って食べたいんです。」
こちらに興味を示し出してくれたのは、そんな事を言い出した頃だと思う。
師匠は言った。
「・・変わってるな。」
会長は言った。
「変わってるでしょう?」

弟子入り嘆願

山の知識

師匠はのんびりと、そして静かに言った。
「どこの山に入ればいいのかさっぱりわからんのだろ?」
「どこに罠を仕掛ければいいのかさっぱりわからんのだろ?」
「仮に獲物が獲れたらどうする気なんだ?」

ありのままを言うしかなかった。
「はいさっぱりわかりません。」
「だから本やYoutubeで見た程度の知識でやるしかありません。」
「でもどうしてもやりたいんです。」
「最悪、獲物が獲れた場合は内臓等はルールに則り山に穴を掘って埋めて、
残りはアパートの風呂場でバラそうと思います。」
そんな無茶苦茶な事を言って苦笑いされた覚えがある。

軽く2時間は話した後、ようやく師匠が折れた。
「じゃあ今度、いっぺん見てみるか?」
まだ渋っている感じはしたものの、一度山へ連れて行ってくれる事をようやく了承してくれた。
その時のLINE交換は物凄く嬉しかったものだ。
店を出る際に会長から
「コーヒー代くらい払うから新人はそんな事を気にするな。」
と言われたが、喜びの余り無理矢理レシートをひったくって3人分の会計を済ませた。
わざわざ時間を割いて来て頂いたのだ。
奢ってもらう事などできなかった。

店を出てから別れる前に、師匠の車の中にある様々な罠道具を見せて頂く。
??? さっぱりわからん。
が、ただただワクワクした。
猟期開始後の初週の土日に、師匠が例年仕掛ける山に連れて行ってくれることになった。

ああついに始まるやっと狩猟の世界に入る時がきた。
そう思ってからもう何年も経ったが、それでもこの世界は未だ楽しい。

日々変化する山の表情

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狩猟
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エセ神戸は小食です意外ですねでもSNSは食い物ばかりアップしています。

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