猟友会
わな猟の免状取得という、狩猟をするための最初の関門はクリアした。
次は何をすれば良いのか?
狩猟関連のインターネット情報も漫画でも、当然の流れの様に語られるのが猟友会への入会だ。
一般社団法人 大日本猟友会の定款には下記が記されている。
- 野生鳥獣の保護増殖及び生息調査に関する事業
- 鳥獣による生活環境、農林水産業又は生態系に係る被害の防止に関する事業
- 安全狩猟及び猟具の改善に係る研究並びに猟具の使用に係る危険の予防に関する事業
- 狩猟事故に係る認可特定保険業に関する事業
- 狩猟に係る各種講習・講演会等及び射撃研修会等の指導教育に関する事業
- 狩猟団体相互の連携並びに親睦に関する事業
- 山岳丘陵地帯における救援活動を支援し、地域社会への貢献に関する事業
- 狩猟により捕獲した鳥獣の利活用に関する事業
- 野生鳥獣による感染症対策に関する事業
- 官公署から委託された事業並びに猟区に関する事業
個人でも狩猟は可能だが、なぜ多くの猟師が猟友会に所属しているのか?
山の中の迷子
自分が罠免許の試験を受けて合格したのは11月の半ば、正に猟期開始という頃だった。
免状が届いたのがそれから2週間程後だったろうか。
自動車免許があっても車を持っていない様な物なので、実際に猟を行うのは来年度だった。
しかしそうはいっても合格で浮かれた自分はすぐにでも何かしたい気持ちで一杯だ。
Youtubeでは罠猟に関する動画を何度も何度も繰り返し見ていた。
通り道や足跡といった鹿や猪の痕跡を見つけ出し分析、
罠を仕掛ける場所を見極め、周囲の景色と見分けがつかない程に自然に罠を設置。
そして見回りの末に獲物を捕獲。
動画の中の猟師達に幾度となく憧憬の眼差しを向けたものだ。
真似だけでも良い。
やってみたい。
ただそれだけで近所の山の中に入った。
そしてすぐに行き詰った。
どこで何をしたら良いのかさっぱりわからない
この山は入って良い場所なのか?
こんな広い場所で一体どこに罠を仕掛ければ良いのか?
分かったつもりになっていただけという事が分かっただけ。
足跡位なら見つかる筈だと少し離れた場所でリトライを試みるものの、
数十メートルも山中に入り車が見えなくなると途端に不安になった。
クマでも出てきたらどうしよう?
法律は犯していないが管理者や周辺で暮らす方々にご迷惑をおかけしているのでは?
何が正解で何が不正解なのだろう?
迷子の道標
そういった新米猟師達の駆け込み寺となるのが猟友会なのだと思う。
- ベテラン猟師の方々から基本ルールやマナーを学べる
- 各種保険に割安で加入できる
- 一定年数ごとに更新が必要な手続きを代行してもらえる
- 各地域の猟師や山周辺の住民の方々との繋がりが持てる
といった、心構えから各種の書類手続き代行までサポートしてくれる。
ちょっとした相談を気軽にできる環境はありがたいし、あらゆる面で助けになる。
また、法を犯してはいなくとも、
各地域ごとに大事にされてきた昔ながらのルールという物がある。
その土地で暮らす方々にご迷惑をお掛けしてはならない。
振り返ってみると、
「雑だなぁ」
「こんなのおかしいなぁ」
と思う事は多少あるが、猟友会には大変お世話になっている。
入会せずに単独で狩猟を開始していたら、早々に頓挫していたように思う。
入会手続きは県の猟友会の問い合わせ先をインターネットで調べ、
こちらが免許を取得したばかりの全くの素人である事を伝えた上で入会希望のメール連絡をした。
会長
何度か猟友会側で連絡ミスがあったものの、
後日、近所の喫茶店で猟友会の会長と面談し無事入会する事ができた。
実際に狩猟を始められるのは来期となる事が分かっていながら、
わざわざ今年度の狩猟税を支払いハンターウェアを支給されて有頂天になった。
そして会長から勧められた。
「狩猟自体はできなくても勉強はいつだってできるよ。
雪が降ったら足跡を見つけるのは誰だってできるからやってみたら?」
ただそれだけの情報でも、とりあえず何でも良いから行動したい新人にとってはありがたかった。
行くしかない。
狩猟目線での雪山
雪が降った日の翌日、長靴だけ買って後は何も考えずノコノコと教えて頂いた山へ向かった。
積雪によりこれ以上進むのは危険だろうという所で車を停め、軽く山中をウロつく。
正直、本当に痕跡を見つけられるのか全く自信がなかった。
そしてやはり気になった事が一つ。
教えて頂いた山ではある物の、本当にウロついて良い山なのか気になって仕方がない。
分からないまま歩いてみるしかないのだが、
周りに誰もいないのに何か悪さをしているのではと疑われないか常に気になり、
調査に集中できなかった事を覚えている。
雪山を歩いてみてすぐ分かった事といえば、
多少であっても雪深い所を歩き回るのは本当に危険だという事。
まともな歩行ができなくなった場所で、
迷う・枝が目にひっかかる・足を滑らせて捻る
そんな事態になったら狩りの安全度は急激に低下する。
公道のすぐそばにいるのに、
そういった僅かなミスがそのまま非常事態に陥る事は間違いなかった。
車は全く通っていなかった。
周りには誰もいないのだ。
危なければ引き返そうという気持ちで臨んだは良いが、
山に気軽に立ち入ると命に関わるという事を強く実感した。
車が見えなくなる程度の距離すら奥へ進めなかった。
しかし目的の痕跡はすぐに見つかった。
当たり前の様に何かの獣の足跡がそこら中にあって、
あまりの多さにゾッとする程。
感動と同時に少し恐ろしい気がしたのを覚えている。
深入りは危険なので、車で場所を移動しまた別のポイントへ入ろうとする。
すると停車した車の目の前にまた無数の足跡があるのだ。
山は人ではなく獣の住む領域という事を思い知った。
猪か鹿か?
本やネットで調べていた筈なのに、
当たり前だが本の様に綺麗ではないのでどちらなのかはっきりとわからない。
これはアライグマ?タヌキ?
わからない。
わからない事だらけの薄暗い山の中で、不安はどんどん身を包む。
安全な所へ避難したいという思いは強くなる一方。
早々に車へ戻り魔法瓶に入れた温かいお茶を飲み、
カロリーを摂っておかねばとお菓子を食べる。
考えている内、更に暗くなり始めた山が恐ろしくなり街に降りた。
間も無く完全な闇の世界と化す山から降り、
間違いなく人がいる街灯の明かりを見て安堵した。
なんだか命の保証をしてくれている気になってありがたかった。
結局、片道2時間かけて山へ向かったのに調べて回ったのは小1時間程度。
情けないと思いつつ、それでも十分だった。
獣が本当にいるという事は実感できた。
絶対に俺は狩猟をやる。
狩る。
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