熊と獣害①

鳥獣被害
フリー画像より

最悪の2文字

2023年10月。
史上最悪・過去最悪。
メディアで熊による被害が語られる時、
最悪の2文字が多く登場する。

クマの被害で最も有名な物と言えば北海道のヒグマOSO18だろう。
初めて牛が襲われる被害が出たのは2019年。
今年8月に駆除されるまで、
少なくとも66頭が襲われ内32頭が殺された。

だが、本州でもツキノワグマの被害が深刻だ。
特に深刻なのは秋田県と岩手県。
そのたった2県だけで被害者数は100人を超える。
それだけではなく全国的に見ても、
幅広い地域で人的被害が増えている。

<NHK>
24日正午時点で被害者数162人。
過去、国が統計を始めて以降の最多数が2020年158人のためこれを既に上回っている。
<TBS>
被害地域はヒグマで有名は北海道に留まらず、東北で特に秋田・岩手県内における人的被害が発生している。
<ANN>
17道府県で被害発生、過去最多を上回るペースとなっている。
東京都町田市のハイキングコースでも目撃情報が出た。

秋。
それは冬を控え食料が少なくなりつつある時期。
それは冬眠のために、熊が食料を積極的に探し回り摂取する時期。
愛知県では、他県のような規模の被害は無いとはいえ目撃情報は毎年多くある。
これから能動的に山に入る自分にとって、
クマの存在と被害の実態を調べれば調べる程に本当に恐ろしい世の中になったと感じる。

ヒグマは250~500kg

熊の猛威

一体、どれだけの規模と範囲で被害が出ているのか?
インターネットで検索すると、
今年に限っただけでも熊による獣害がどれだけ酷いのかよく分かる。
家畜や家屋を省いた人的被害のみに絞っても山ほど出てくるのだ。

6月16日
島根県邑南町で70代の男性がツキノワグマに襲われる。
クマの大きさは70~80センチ。
消防には、
「自宅近くの畑でクマに襲われ右目が飛び出している。出血は止まっていて意識はある。」
と通報が入った。

6月18日
北海道札幌市で40代の男性が背後からヒグマに襲われる。
最初の1撃で肋骨を6本骨折、全身を140針縫う重症を負った。
(成人男性が1撃で吹き飛ばされ塀に叩きつけられている)

8月9日
岩手県一戸町の自宅近くの林の中で83歳の女性が襲われる。
通行人が血を流し倒れる女性を発見。
病院へ搬送されるが、その後死亡が確認された。

10月17日
富山県富山市の住宅敷地内で、熊に襲われたと思われる79歳の女性が死亡。
また被害現場から約2km離れた小学校の校庭で
親子と見られる3頭の熊の足跡が残され、
車での登校が原則となった。
熊と走行車両の接触事故も発生した。
17日時点で県内における10月のクマの出没件数は114件。
昨年度22件の5倍以上となっている。

10月19日
秋田県北秋田市の市街地で、
店舗入口ドアのガラスが割られる被害が出た。
小学校の近くで80代の女性2人が襲われる。
その後、バス停でバスを待っていた女子高校生と80代の女性が襲われる。
高校生は腕を、
80代女性は頭部に怪我をして出血。
更に被害現場近くで60代の男性が襲われる。
自宅シャッターを開けると目の前に熊がいて襲われたとの事。
NHKの記事には、
『女性1人が腕や腰を骨折する大怪我をした。』
と記載されており、男性の被害に関しては、
『顔や右の脇腹をひっかかれてけがをしましたが、命に別状はないということです。』
とある。
だが、男性の怪我もそんな文言で済むレベルではなかった。
大怪我によりドクターヘリで病院へ搬送され入院していたのだ。
治療後の取材に答えた被害者。
ツキノワグマに襲われた腕の、背中の、顔の裂傷と咬傷。
十二分に重症と言って良い程の傷を負っている。

10月24日
秋田県羽後町のゴルフ練習場で、ゴルフボールを回収中の女性が背後から襲われる。
意識はあったものの、右ほほや右目近くを引っかかれ病院へ搬送される。

山の奥深くまで山菜取りやキャンプに行って襲われたのではない。
不用意にエサをやろうとして近づき襲われたのではない。
人に怯えパニックになった熊が暴走したのではない。
被害は、自分達が普段から暮らす街中で、
突如発生している。

個体数管理

令和4年3月に環境省が出した、
特定鳥獣保護・管理計画作成のためのガイドライン(クマ類編)改定版
というガイドラインを見てみる。

現在国内には北海道にヒグマ、本州と四国の33都府県にツキノワグマが生息しているようだ。九州の熊は1941年の捕獲記録を最後に実に80年以上が経過しており、
2012年に熊は絶滅したと判断された。
多くの地域で熊の分布が拡大する一方、四国ではその個体数が減少傾向にあるという。
過去から現在まで、
都道府県ごとに絶滅の危機に瀕した熊を守るために捕獲禁止と解除が繰り返されてきた。

兵庫県ではツキノワグマの狩猟解禁基準が800頭以上。
絶滅回避のため1996年から20年に渡り狩猟を禁止。
その後、
2016年に解禁
2020年に禁猟(推定頭数722頭)
2023年に解禁
と年度毎に微調整がなされている。

1990年からの統計によると、全体的に見れば近年は大幅な増加傾向を示している。
特定計画制度による保護・管理により分布域の拡大・回復や個体数の維持・回復は達成された。
ただその一方、
今度は人間の暮らしが脅かされる事になった。

熊の分布域

ネットで得られた生息数に関する情報はバラつきが多い。
2000~3000頭という記事もあれば15000頭という記事もある。
だが、環境省資料の下記の捕殺数が正しければ間違いなくもっといる。
捕獲数ではなく捕殺数が2020年では6000頭を超えている。
もし15000頭しかいなかったとしたら、熊はとうの昔に絶滅している筈だ。

ヒグマ及びツキノワグマ捕殺数

そう考えていると、環境省の別資料を見つけた。
階層ベイズという算出法によると、
ツキノワグマだけでも2020年時点で最大10万頭近くいる。
これなら捕殺数に納得がいく。
しかしそれでも国内で10万頭。
鹿や猪よりもその数は遥かに少ないのに人的被害が尋常ではない。
東北で被害が多発しているという事は、
やはり東北での個体数が増加しているのだろう。

環境省による推定生息数

雌と雄で大きく異なるようだが、熊の行動範囲は数十㎢と相当な広範囲を動き回るようだ。
隣の市町村どころか県を跨いで行動する個体も多くいるだろう。
保護も捕殺も、地域を越えた組織間の対策が必要である事が主張されている。

原因

特に目立つ東北地方における被害の増加要因とは一体何か。
自分一人で予測できたのは人口減少と、
それに伴う耕作放棄地増加。
エサに関する情報がメディアで語られる事が多いと感じたので併せて列挙してみる。

【エサの凶作】
メディアでは熊のエサとなるブナの実の大凶作を指摘、
飢えた熊が食料を求めて人里に降りてくるようになったとしている。
また、熊はドングリも食べる。
自分が暮らす愛知県では今年凶作の模様。
隣接する岐阜県の一部でも凶作との事で、愛知県まで移動してくる個体が出ている可能性は十分ある。
鹿や猪の個体数増加は、熊がありつく事のできる食料が減る要因にもなっていそうだ。

【人口人口減少率】
<人口>

秋田県・・約93万人(全都道府県中39位)
岩手県・・約118万人(全都道府県中32位)
<人口減少率>
秋田県・・・-3.08%(全都道府県中1位)
岩手県・・・-2.48%(全都道府県中4位)

元より非常に少ない人口が、国内最速のペースで減少している。

【面積・人口密度】
<面積>
秋田県・・・約11600㎢(全都道府県中6位)
岩手県・・・約15300㎢(全都道府県中2位)
<人口密度>
秋田県・・・79.91/k㎡(全都道府県中45位)
岩手県・・・77.28/k㎡(全都道府県中46位)

国内上位の面積の広さ。
人口数の少なさという要因もあり、
北海道を除けば人口密度が最も低い。

【森林率】
秋田県・・・72.3%(全都道府県中14位)
岩手県・・・76.7%(全都道府県中8位)

トップとは言わないまでも国内で上位に入っている。

・・熊の対策という観点で言えば、つまりはこう言う事になる。

「熊が多数生息する東北の中でも特に少子高齢化著しく体力のある若手は確保し辛い状況だけれどめちゃくちゃ広い範囲を僅かな人数でなんとかしろ」

東北は積雪量が多いので、対策は一層厳しいものとなるだろう。
無理をすれば、一層被害を拡大させる事になる。

被害対策の1つとして挙げられるのが藪払いだ。
人間と熊の住む地域を分断するための緩衝地帯を作る事で、基本的に憶病な熊が人家に出没する事を防ぐ効果がある。
だがこの方法では東北では年を追うごとに厳しい対策になるし、そもそも厳しくなり熊が人家に接近し易くなり人に慣れてしまった結果が、昨今の被害を生み出しているように見える。
こういった所でも県を越えた協力が必要になるだろう。
共存・共生とは、人と獣との暮らしを可能な限り明確化して住み分ける事だと思う。

緩衝地帯の重要性

目的と概念

命の優先順位

「かわいそうだから殺すな。」
と言う方がいる。
残念ながらそれは無理だ。
既に多数の死者が出ている。

「だったら山に入るな近づくな。」
これも無理だ。
話が極端すぎる。
世の中を支える林業や農業関係者はどうなるのだろうか。
放置された山林の末路は土砂災害と生態系の崩壊というしっぺ返しだ。

趣味として狩猟をしている自分ですら、
鹿や猪用のくくり罠に熊が掛かった場合、
自分の命をどうすれば守れるかを必死に考え生きるために全力を尽くす。
鋼鉄製の箱罠を破壊する力を持つ熊の前で冷静でいられる自信は無い。
「もっと離れた所で暮らすべきだ。」
東京でも熊は出没した。
都民は全員、転職し引越しせよという事だろうか。

そもそも被害が出る前に対策しなければならないのが普通なのに、
家畜が何十何百頭殺され、人が多数の死者が出ても尚、殺してはならないという方がいる。
価値観は千差万別とはいえ、命の優先順位が自分とはまるで違う。

自分としては人間の命を最優先させたい。
それぞれがそれぞれの事情でそこかしこで暮らしている。
今、自分が息をしているこの場所も、自然を破壊してできた人が安全に暮らしていくための場所だ。
狩猟がかわいそうと言うのであれば、
乗馬も競馬も釣りもペット飼育も、スポーツもアートも何もする事が出来ない。
水族館も動物園も学校も会社も病院も作ってはならない。
車も飛行機も電話もインターネットも使ってははならない。

原始人のような生活なら良いのか?
中には「そうだ」という方もいるのだろう。
だが、価値や道徳を測るための物差しは人それぞれ異なる。
それでも足りないという方がいてもおかしくはないしいるのだろう。
アリが潰れるから歩くなとか?
これこそ話が極端すぎるだろうか?

何十頭もの牛を殺したヒグマOSO18。
対策に奔走したハンターや畜産業者、その他大勢の人々が被った損害と苦労、費やした労力と時間と費用、そして無念は計り知れない。
駆除されたOSO18の顔には傷があったと言う。
より強い、
つまりは人間にとってより危険な個体が存在している可能性を、
現地の猟友会は危惧している。
これから先、
更なる被害が出ようと、やはり彼等は殺すなと言い続けるのだろうか。
やはり助けてくれと言われた時、その要望に応えられる技術や知識や体力を持ったハンターはいるのだろうか。

OSO18の肉は、東京都のあまからくまからというジビエ料理店で提供され話題となった。
カップルがその肉を食べている様子がテレビ番組に映る。
奪った命に感謝して大切に頂くというよりは、
物珍しい話題の肉を食べられて嬉しいといった表情に見えた。
どこか腑に落ちずすっきりとしない気持ちだったが、自分だって大して変わりはしない。
きっと似たような物だろう。
これもまた人の欲の1つで、
正に人間とはこういう物だと感じた。

何事も完璧と言える物は少なく、世の中で修正と改善は常に求められる物だが、
人が望み求めたから今の世の中がある。
生きるために殺すのだ。
殺しているから生きていられるのだ。
もし身の回りの大事な人が熊に襲われたら迷わず殺すし、
それが当たり前だと思う人達と生きていく。
それが自分にとっての持続可能な社会で世界。

多数派が常に正しいとは全く思わない。
それでも、
SDGsという言葉が世の中に広く認知される遥か前から、
このような感情は多くの日本人が持つ一般常識であり自分はその一部だと感じている。

どこまでの命を奪うのか。
何を以て正義を謳うのか。
それは、自分だけが持つ物差しで測り線引きをする。

【ハウスプロテクト害獣駆除】

鳥獣被害
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エセ神戸は小食です意外ですねでもSNSは食い物ばかりアップしています。

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