猟法と肉
銃を背負って1つの山を集団で狙う『巻き(狩り)』。
鹿や猪を追い立てる役と、
追い立てられたそれらを待ち伏せて仕留める役。
最低でも10人は人手が必要と聞いたことがある。
つまりそれは、仮に獲物を1頭仕留めた場合、
肉の取り分が10分の1になるという事だ。
藪だらけの鬱蒼とした山の中では、
獲物を見つけ出すためには猟犬が必須となる。
仮に3頭の猟犬が巻き狩りに参加したら?
公平を期すために取り分は13分の1になる。
巻きで大量の肉を手に入れるのは難しそうだ。
単独で山を歩き周る『忍び(猟)』。
車で山道を低速で走りながら探し回る『流し(猟)』。
どちらも銃を用意してやってみた事はあるが、
経験の低さや技量の拙さもあって、
まだまだ罠を越える猟果は得られていない。
山の中の獲物を見つけ出すという猟法では、
血抜きは仕留めたその場所で行う必要がある。
腐敗しやすい内臓は入れっぱなし。
仮にその場で取り出したとしても、
搬出時に大量の土や泥が腹の中に入る事になる。
近場に水場が無ければ簡単な洗浄もできない。
担いだり背負ったりして運び出すのは重労働だ。
大量の血やダニが衣類に付着するのは避けられない。
銃弾がどこに当たるか定かではない。
射撃のヘタクソな自分なら猶更だ。
排泄物の詰まった臓器に命中してしまえば大部分の肉が汚染される。
体に当たれば肉そのものがズタズタになる。
得られる肉の量も大事だが質も大事だ。
肉質の劣化を防ぐためには、
迅速に血を抜いて冷却しなければならない。
罠を仕掛ける際は止め刺しから解体までの手順や、
その為に必要な場所まで考えて架設する。
罠に掛かった獲物の行動範囲は、
ワイヤーを括りつけた木やその根を中心に、
獲物の脚までの距離を半径として2~5メートルといった所。
自分のような経験の浅い新人でも、
止め刺しの狙いが比較的定めやすい。
つまり、あまり苦しめず、血抜きしやすい。
ワイヤーで縛り上げられた脚はうっ血している事が多いものの、
それ以外は無傷。
一度も銃で撃たれた事の無い個体という前提になるが、
刃物で止め刺しすれば体内に銃弾が混入している可能性はゼロだ。
罠猟は基本1人多くても2人で行うので、
肉の取り分は2分の1。
一頭仕留めると大量の肉が手に入る。
量・質・コスト。
様々な要素を総合的に見て、自分にはやはり罠が向いている。
雌猪の用途
目論見通り、ありがたい事に毎年大量の肉が手に入っている。
時には貰ってくれないかとこちらが願い出る程で、
欲しいという人がいれば5kgでも10kgでも望む分だけ譲っている。
鹿はジャーキーやハムに、猪はソーセージやベーコンにしてきた。
スーパーで買った方が手間要らずで安くて、
悔しい事に美味しいというのが実情だ。
しかし、昔ながらの製法を試行錯誤して再現し、
繰り返す事でどんどん美味しくしていける事は楽しい事でもある。
ハムやソーセージは美味しいが、
今の所は加工肉の中では猪のベーコンが一番美味しいと思う。
脂がよく乗った雌の猪。
鍋にしても焼肉にしても美味しく頂けるが、
ベーコンにも非常に向いている。
毎年作り方を変えて楽しんでいる。
①塩漬(えんせき)
ベーコンは塩と砂糖の2種の調味料があれば作る事が出来る。
使用する肉の重量に対して数%といったレシピが多くあるので、
それを目安にしてやれば良い。
ブロック肉に満遍なくすり込んでいく。
自分はスパイスからカレーを作る事があるので、
カレーの香りのするカスリメティというスパイスを使う事もある。
ローズマリーやオレガノといったハーブや、
ニンニク・胡椒などの定番スパイスも良く使う。
使用する肉にどれ位の脂身が含まれているかで、
すり込んだ調味料の浸透具合も変ってくる。
その辺りも考えて調味料の配分も変える。
何度も繰り返し作っていると、
だんだんと計量しなくても感覚で分かってくるものだ。
浸透圧で出てくるドリップを拭き取りつつ、冷蔵庫で1週間程寝かせる。
獲物が獲れすぎると解体に追われ続けるので、
こういった作業は
『ジビエ料理になる食べ物を作っている』
という実感が持ててとても楽しい。
②塩抜き
ハムを作る時と同様、真水に数時間晒して塩抜きする。
①の過程でフォークを突き刺し、
肉に穴を開けて浸透を助ける方法もあるが自分はやった事が無い。
これまでの経験上、何もしなくても十二分に調味料が染み込んでいる。
穴を開けてしまうと浸透し過ぎて、この塩抜きの時間が非常に長くなる。
その様な手間の問題もあるが、
水にさらし続ける程に肉そのものの風味が損なわれるので避けている。
・・ただ、一度は試してみたいとも思っている。
やってみたら、
それはそれで何か得られるものがあるのかもしれない。
③吸水・湯煎
塩抜き後は、表面の水分をキッチンペーパー等で拭き取ってから風乾させる。
猟期は空気が乾燥した冬なので、外気に半日も当てれば問題ないだろう。
肉が乾燥したらジップロックやビニール袋へ入れて茹でる。
『加熱温度や時間、そもそもビニール袋を使って良いのか?』
といった点に関しては鹿ハムで説明している。
ビニールが溶けないように何十分も鍋の目の前で見張っているので、
この作業は正直ちょっと退屈で面倒くさい。
炊飯器などの保温機能を利用しても良いのだが、
一度に仕込む量がキロ単位なので時間的に問題がある。
この辺りはどんどん改善していきたい。
④燻煙
アウトドアショップで売られているスモークチップ等で燻製にする。
③ではなく、
この過程で加熱する熱燻・温燻といった方法もあるがこれも避けている。
ジビエ肉は家畜よりも衛生面で危険性が高い。
燻製そのものをする機会が少ない自分の場合は、
安定した温度で気体を操るのが難しい。
大量の煙を発生させるので、必然的に作業は室外。
寒風吹きすさぶ冬場という条件も更に難易度を上げる。
そのため、
料理で手慣れた湯煎の方が安全に加熱ができると思っている。
その方が肉の中心部までしっかりと加熱できている安心感がある。
この工程はあくまで風味付けと保存性向上を目的としている。
パスタにポトフにカレーにシチューに
シンプルにベーコンエッグにするだけでとても美味しいが、
煮込みや炒め物は当然、様々な料理に使える。
用途によっては塩分濃度が高いので、
料理ごとに使う分だけ水につけて適度に塩抜きすればいい。
塩抜きに用いた水にはスモーク時についた薫香がする。
塩分だけでなく肉の旨味も溶け出しているので、
野菜を放り込んで煮るだけで立派なスープになる。
乾燥によって水分が抜けて体積は小さくなるが、
一度に数キロ仕込むので何の問題も無い。
むしろ、猟期の冷蔵庫・冷凍庫は肉まみれになるので、
冷凍庫に収納しやすくなってありがたい。
ハムやソーセージでも同じ事が言えるが、
徹底的な加熱を常に心がけている。
そのため誰かに譲る際は、
生肉をおすそ分けするより遥かに安心して渡す事ができる。
まずいと思われたら悲しいが、
これでお世辞でも美味しいと言って貰えたら最高だ。
山の恵みに感謝しつつ、可能な限り楽しみたい。
もっともっとジビエ肉を美味しい物にしたい。
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