手に入る猪肉の量
猪が1頭獲れたら一体どれ位の食肉が手に入るのか?
体感的には半分を少し下回るといった所だろうか。
日本ジビエ振興協会によると猪の歩留まり率は最大60%、最小20%との事だ。
実際に猪を仕留めて解体している身としては60%は流石になかろうと思うのだが、
骨や皮も販売しているために高い値が出ているそうだ。
もしかすると顔の皮まで剥いでほほ肉から脳、
更には内臓に至るまで利用しているのかも知れない。
肉だけでなく毛皮まで利用するには相当な手間がかかるが、
そこまでしているなら素晴らしい事だと思う。
腎臓・心臓・肝臓以外をまだ食べてみた事は無いが他のホルモンも相当な美味と聞く。
20%に関しては、鹿に関する記述であるが肉をトリミング(不要部を削る)した結果とみられる。
損傷部位を避けた結果なのか、
熟成後の外側の腐敗部位を削ぎ落とした結果なのは分からない。
1頭から如何に多く可食部を残せるか?
品種改良を重ねた豚は平均で65%と高い値を出している。
これまでの経験上、猪はせいぜいが40%といった所で豚の歩留まりに遠く及ばない。
だが・・されど40%である。
仮に80kgの猪が獲れた場合、肉が32kg手に入る事になる。
肉を手に入れるために狩猟を始めた自分としては万々歳なのだが、師匠と山分けしても16kg。
それが鹿も合わせて短期間に何頭分も手に入ったら・・・
猟期中は冷蔵庫・冷凍庫があっという間に肉で埋まり、狩猟ではなく肉の処理に奔走する事になる。
自分はジビエ用の冷凍庫を一般用とは別で所持しているがそれでもスペースが足りない。
長期保存の必要性
「今年は獲れるか分からんな。」
師匠とお互いそう言いつつ、結局は毎年肉を貰ってくれる人を探す事になる。
友人・家族・弟子からその先の伝手まで。
誰にも彼にも譲る訳ではないが欲しがる人は意外といるものだ。
何度も渡すと嫌がられると思うので1人あたり年に2度までにしているが、
何kgもの肉を一度に渡すと結構喜ばれるのでこちらとしても嬉しい。
「全く臭くなくて美味しかった。」
前段のその不名誉な表現を少しでも減らしたいと思っている。
勿論、肉はなるべく良い部位を渡すようにしている。
硬いスネ肉等は料理に手間がかかるので歓迎されないだろうし、
むしろそういった部位は自分が美味しく食べられるように試行錯誤したいのだ。
それがお互いにとって良い事だと思っている。
しかしそこまでしても日を追うごとに冷凍庫や冷蔵庫のスペースはパンパンに。
そのため、猪なら長期保存が可能なソーセージ・ベーコン・ハム等にして楽しんでいる。
今回は毎年作るサルシシッチャ(サルシッチャはイタリア語で腸詰めの意)を説明する。
① 猪肉を手に入れる
猟師になる選択が無い方はネット通販で購入して頂きたい。
猟師になる選択をした方は自分が食用にならないよう全力で臨んで頂きたい。
② ソミュールに漬ける
作り方は千差万別だが基本的な材料は下記。
他の調味料があれば好きに放り込んで作っている。
- 塩
- 砂糖
- ローリエ
- 赤唐辛子
これらを水に加え沸騰させ、冷却後に肉を漬け込む。
この漬け込み用の液体をソミュール液・ピックル液・ブライン液と言う。
(言葉毎の詳細な違いに関してはここでは省く)
濃度が高い程に雑菌の繁殖要因となる水分が浸透圧で抜ける。
そのため保存性は良くなるが、塩辛くなりそのままではとても食べられない。
ただ、次の段階で塩抜きという工程が入るので少し塩辛い位の濃度が望ましいと思っている。
1週間程漬け込むが、冬とはいえ室内は暖房の影響で腐敗リスクがあるため冷蔵が良い。
獲物が獲れすぎて冷凍庫はもう肉で一杯。
冷蔵庫に肉を入れっぱなしでは腐ってしまう。
そんな時にこのような方法で長期保存用の肉を仕込み、その間に冷凍庫の肉を消費する。
保存用の肉が出来上がる頃には冷凍庫に幾分か空きができる。
そこに完成した保存用の肉を入れる。
そんな具合でなんとかうまい事スペースを使い回そうと必死になっている。
完璧にうまく行く事は・・なかなかない。
更に獲物が獲れてしまうから。
③ 塩抜き
漬け込んだ肉は半日~1日ほど水にさらして塩を抜く。
かたまりの肉を濃い塩水に漬けると、当然外側の肉の方が塩辛い。
だから水にさらすことで中心部と外側の塩分濃度を調整するのだ。
ソミュール液の濃度や漬け込み時間は人それぞれ。
使う肉の質・部位や当人の味の好みまで異なるのだから、どれ位が丁度良いかはその人次第。
塊肉を一部削ぎ落して加熱して食べてみて、好みの塩梅を自ら決めるしかない。
逆に言えば自分の好きに加減できる楽しい時間だ。
④ 腸詰と乾燥
ソーセージの作り方に関しては素人の域をまだまだ出ない。
そのため、衛生上の都合で使用する腸に関しては、ネット販売で購入した豚の腸を使っている。
冷蔵で塩漬けされた状態で届くため、使用時は真水に入れて塩抜きする。
尚、腸は余ったからと冷凍保存せずになるべく一気に使い切った方が良い。
凍らせると氷となった水分が腸を傷つけて肉を詰める際に破れやすくなるからだ。
塩抜きした肉は表面についた水分を取り、風にさらす等して乾かしてからミキサーへ。
その後、ミンチになった肉を腸へ送り込んでいく。
初年度は盛大に失敗して腸を何度も破いてしまった物だが、今ではなんとか形になってきた。
失敗は悔しい。
だからこそ、徐々に上達して行く過程も上手く行った時の結果も嬉しい。
今年はもっともっと上手く作ろうと思っている。
せっかく頂いた命だから。
④完成
腸詰めが終わったら好きな間隔で腸をねじる。
肉ごとねじると裂けるので、ねじる部分だけ指の腹で肉を左右に押しのけて腸だけねじる。
その後、吊るして乾燥させれば完成だ。
(余談だが、サルシッチャはイタリア語でソーセージはドイツ語。
ソーセージは加熱した腸詰めの総称を指すそうだ。)
自ら作ってみる事で第一次産業の偉大さをつくづく感じる。
「こんなに手間暇かけて作ったのにやっぱりスーパーのソーセージは美味しいなぁ。」
それが正直な感想でまだまだレベルが低い。
しかし自分で作った物は大概おいしい。
完成するまでにかけた苦労を自分が1番分かっているから。
茹でて食べてよし刻んでパスタに入れても良し。
一応、作ろうと思えばそれなりの形の物を作れるようになった。
それが自分にとっては何より嬉しい。
出来る事が増える事、それが嬉しい。
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