初猟①(人生初の獲物)

狩猟
毎年必要な狩猟者記章

山へ師匠と

一部例外を除き、狩猟の開始日は毎年11月15日からと決まっている。
猟期が始まる数日前、師匠から山へ入る日程確認の連絡があった。
15日は平日・・教えて頂く身としては有休を取る勢いでいたが、
そこは気を遣って頂き開始第一週の土曜に行く事となった。
前日の金曜日は仕事を全力で済ませ明日に備える。
事前に準備しておくよう事前指示を受けていたのは、

  • 猟友会から支給されたオレンジのハンターウェア
  • 軍手
  • 長靴

これだけ。

だが、狩猟をする際には
鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律
により下記二点も必要となる(環境省HPより一部抜粋)。

(狩猟者登録証の携帯及び提示義務等)
第六十二条 狩猟者登録を受けた者は、狩猟をするときは、狩猟者登録証を携帯し、国又
は地方公共団体の職員、警察官その他関係者から提示を求められたときは、これを提示
しなければならない。
2 狩猟者登録を受けた者は、狩猟をするときは、狩猟者記章を衣服又は帽子の見やすい
場所に着用しなければならない。
https://www.env.go.jp/nature/choju/law/pdf/H26_hogohou.pdf

記章(バッジ二種)はオレンジキャップとウェアに装着したので問題ない。
問題は登録証だ。
狩猟者登録証は毎年申請し猟期が終われば返納しなければならない。
汚損・紛失しても再交付可能だがそんな事は絶対にあってはならない。
山では携帯必須である以上、再交付なんて事になったらそれまで何もできないという事でもある。
登録証に関する罰は下に記されている。

第八十四条 次の各号のいずれかに該当する者は、六月以下の懲役又は五十万円以下の罰
に処する。
二 許可証若しくは従事者証、危険猟法許可証、麻酔銃猟許可証又は狩猟者登録証を他
人に使用させた者

仮に登録証を紛失し、それが悪用されて万が一自身に罰となって帰ってきたら・・
一滴の水すら入らないように、開閉可能なビニール袋に入れて口を完璧に閉じてリュックに詰めた。
猟師にとっては当たり前すぎて師匠は何も言わなかったのだろうがこちらは一年生だ。
絶対に忘れない様に何度も何度も確認した。

土曜の朝、最寄りのコンビニで待っていると師匠は時間通りに車でやってきた。
「おはようございます。よろしくお願いします。」
「・・・おう。」

当たり前だが、お互いぎこちなく会話を交わしつつ山へ向かった。

正月飾りに使われる千両
狩猟以外にも様々な事を学ぶ

ぎこちない会話

ほぼ初対面なのでお互いにどのような人間なのかほとんど分からない。
先日、それなりに話をしたとはいえそれは会長の同席あっての事。
今回は二人だけだ。緊張した。
礼儀正しくせねばと思い大人しくしている自分と、
寡黙だがなんとなくこちらを気遣ってくれているように感じる師匠の織り成す微妙な空気。
何とか話題を作らねばという思いもあり、目的地までの道中に様々な質問をぶつけた。

いつから猟をしてるんですか?
銃猟もしてるんですか?
罠も同じ時期に始めたんですか?
普段は何してるんですか?

師匠は淡々と返事を返してくれるのだが・・たまに全く返事をしてくれない時がある。
その度、やかましいと思われてるのではと不安になったがそうではなかった。
大分後から知った事だが師匠はパチンコが好き過ぎて僅かに耳が遠かっただけだったのだ。
そしてこちらはこちらで活舌が悪く声が届いていなかったのだ。
それを知るまで勘違いし続けていたのだがそこは怪我の功名、
車内で大声で会話していると幾分か緊張が解け、少し打ち解けて話ができるようになりホッとした。

一体どこを走っているのか分からなかったが、一時間のドライブの末に狩場へ到着した。
「着いたぞ。」
師匠は道端に車を停めた。

・・・こんな所に鹿や猪がいるの?

道中の花

何も知らない

・・道端なんですが?
それが率直な感想だった。
確かに山と言えば山だがとても低い。
ハンターマップ上は確かに狩猟可能な地域ではある物の、住宅地から10分15分車を走らせた程度。
正直、拍子抜けした。
そして疑った。
・・いるの?鹿や猪が?ここに?
そう思いはすれどそんな事は当時言える筈もなく、師匠に続き自分も車から降りた。
しかしそんな疑問以前の問題、自分の未熟さを初っ端から思い知る事になった。

山へ入るために長靴に履き替えると師匠が言った。
「なぜズボンの裾を長靴の中に入れんのだ?泥汚れから守る長靴の意味がどこにあるんだ?」
そう言われた事を未だに覚えている。
自分は本当に何も知らなかったのだ。

狩猟を始めて一年は、スコップやツルハシの使い方を見てよく苦笑いされた物だ。
「ぎこちねぇなぁ。包丁は得意なんだろう?」
当たり前だが一から全部学ばなければならなかった。
大恥をかきつつ軍手をはめ、目の前の山へ向かった。
今回の師匠の目的は下見。
獣の痕跡を辿りどこに罠を仕掛けるか検討する。
素人の自分は当然、後をノコノコついていき勉強だ。
ガサガサと山を分け入り獣の痕跡を探す。
ネットと書籍で得た情報しかない自分でもなんとか見つけようと辺りを見回すがよく分からない。
それらしき・・たぶん・・道はあるものの「ありました!」と言えるものは見当たらなかった。
何しろ頭の中は「・・こんな所にいるの?」で一杯だった。

しばらく周辺を探索しそろそろ別の場所へ移動しようかという所で白く細長い札を見つけた。
木に括りつけられている。
それは罠の存在を示し注意喚起するためのプレートだった。
一か所罠を仕掛ける毎に一枚必要で、他の猟師が仕掛けた物がそこにあった。
そもそも鬱蒼とした山の中に入る人がまずいない訳だが、それでも何があるか分からない。
地面に巧妙に隠されているため安全上
「ここは危険ですよ」
と知らせるために設置が義務付けられている。

「危ないからその辺は近づくなよ。」
そう師匠に言われて警戒した。
どこにあるか分からないし罠は一か所とは限らない。
慎重に、そしてゆっくりと進むといきなり片足が強く引っ張られ思い切り前へ転倒した。
!!!???
何かに強く掴まれた感覚。
動物の気配は全くなかった。
驚いて起き上がり動揺したまま足元を見ると、足首に罠のワイヤーかかっていた。
人生初の獲物。それは自分。

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エセ神戸は小食です意外ですねでもSNSは食い物ばかりアップしています。

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