鹿肉が臭い理由(熱・鉄・アラキドン酸)

料理
シカハムラーメン

鹿は臭いのか?

狩猟を始めてから2年目を迎えた頃、
ジビエ肉の味の評価、
特に鹿肉の評価を気にする様になった。

実生活やメディアで、
「鹿って臭くない意外と美味しく食べられるんだ」
といった表現をよく目や耳にしており、
それがどうにも気になったのだ。
正確に言えば、気に障ったのだ。

先入観に支配されているなぁと思いつつ、
なんというか・・
「頑張れば食べられない事はないよ?」
みたいな表現に感じられ、
普段から喜んで食べている身としては、
独りで勝手に悔しい思いをしていた。

しかし、
個人的に鹿は猪に劣らず凄く美味しいと思うものの、
そのような声は猟師からもよく聞かされていた。
それはそれはもう、
鹿『なんか』よりも猪の方が圧倒的に人気がある。

猪は仕留める際、
鹿と比べ捕獲時の危険度が跳ね上がるという事もあり容易には獲れない。
そのような理由もあってか、
肉質が良いとされる若い雌猪なんかが獲れた日には特に羨ましがられる。
先輩という立場を使って、
「譲ってくれ」
「譲ってくれたら助かるんだけどなぁ」
と半ば強引にせがまれた事もある。

一方鹿は、
「もう食べ飽きたなぁ鹿は。」
とか、
「鹿は猪と違って臭うからなぁ。」
とか、
提供を提案するや否やハッキリと、
「いらない!」
と言われて当然のありさまだった。

生息数の多さもあってか鹿は避けられて当たり前。
獲物を仕留めるというゲーム的な意味合いではまた異なるのだろうが、
いただきますの精神など皆無。
農家だけでなく、猟師からも疎まれていた。

焼肉ならレバーっぽい臭いを感じない事も無いが、
決して不快なレベルではないし凄く美味しいのに・・
ずっとそう思っていた。

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鹿肉の栄養素

まず農林水産省データから鹿肉の栄養価を見てみる。
(100gあたりの成分を参考として牛と比較)
使用部位は下記の通り。
鹿・・ニホンジカ、赤肉、生
牛・・和牛肉(サーロイン)、赤肉、生
栄養成分について
カロリーは半分、脂質に至っては1/6~1/7。
タンパク質は1.4倍となっている。

解体してみるとよく分かるのだが、鹿は脂が非常に少ない。
個体差があるとはいえ、
鹿肉と聞いてイメージされるのは体を動かすための筋、
それよりもとにかく赤身。他は肉を包む膜程度しかない。

雨・雪・食糧不足
そんな過酷極まる冬の山中を、
よくもまぁ耐え抜けるものだと思う程に全身赤身だらけだ。
脂肪が無いに等しいのでカロリーの低さも納得できる。

ただ、上記の比較には気になる点がある。
比較対象の牛の部位がサーロインである事だ。
脂肪分の少ないヒレやモモと比較するならともかく、カロリーの高いサーロインを選んでいる。
豚だってバラとヒレではまるで栄養価が異なるのだがなぜサーロイン?
試しに牛ヒレ肉の栄養価を調べてみた所、とあるサイトを見つけた。
そこには、
カロリー・・177kcal
タンパク質・・20.8g
脂質・・11.2g
と記載されていた。

鹿肉の優秀さをアピールしたいのかもしれないが、
カロリーは牛ヒレ肉と比べ3分の2、特に脂質は半分以下と優秀だ。
こちらの比較の方がフェアな比較で鹿肉の良さを訴えられる気がする。

食肉のクセ

確かに鹿肉にはクセがある。
笹を好物とするその食性から先入観ができているのか、どことなく草っぽい匂いがする。
だがそれは一つの肉の個性であって、臭いか臭くないかは人の好みのレベルであると思っている。

狩猟を始めてからというもののスーパーで肉を全く買わなくなった。
自ら仕留めた獲物の肉が冷凍庫に大量にあるからだ。
3月の猟期を終えてから9~10月までの約半年間は、
ベーコンやジャーキーにした保存用の肉も食べて過ごす。
肉を食べつくしたら、
11月猟期までの約1ヵ月間、魚ばかり食べて過ごす。
居酒屋に行けば喜んで家畜の肉を食べるので自給自足を謳うつもりは毛頭なく、
変にムキになって家畜の肉を買う事を我慢しているだけだ。
そんな生活を何年も続けている。

外食で家畜を食べる度、その柔らかさや旨味に感動する。
それと同時に思うのだ。
「家畜は家畜でそれぞれ十二分にクセがあるぞ?」
鶏は少ない方だが、豚にも牛にも強烈なクセを感じる。
ラムやホゲットは別として、
あのクセが強い羊肉がジンギスカンとして世の中に出回っているのだ。
要は慣れの問題であって鹿はもっと評価されて良い筈だ!
・・と鹿が大好きな自分としては常々思うのだが。

オンラインで買ってハズレを引いてしまったとかが原因だろうか?
なにがそんなに敬遠されるのだろう?

熱・鉄・アラキドン酸

毎年、鹿を仕留め何の不満も無く料理し食べているので、誓って鹿肉は臭くないと断言できる。
現在は禁止されているが、刺身としても長年食べられてきた歴史を持つのだから臭い訳が無い。
だが、臭いと言う人がいる。
血抜き等の仕留め方?解体後の保存法?
原因は一体どこにあるのか調べていると、「新狩猟世界」というサイトで偶然ある単語を見つけた。それがアラキドン酸だった。
 – 正しく知ろう『血抜き』のこと。ジビエの“レバー臭”は血抜きではなく、調理方法の問題です –
ずっと悩んでいた答えがここにあった。

アラキドン酸は肉にも魚にも卵にも含まれる。
だがそれらは臭くない。
では悪臭を発する要因は何なのか?
それは熱。
100℃以上でアラキドン酸が加熱されると、
鉄分と反応し酸化アラキドン酸となり、それが俗に言う「レバー臭」を発するのだ。

「レバー臭い」
と、まるでレバーのみが臭うかのような表現がされるが、
鉄分を多く含む部位の為、
大量発生した酸化アラキドン酸による臭みが際立っているのであって、
酸化アラキドン酸はレバー以外の部位でも発生しているのだ。

それで全て合点がいった。

野山を駆け巡る野生鳥獣は、
家畜より大量の酸素を必要とする。
そのため、
全身に酸素を供給するための鉄分を、
家畜よりも遥かに多く持っている。
それが鹿は特に抜きん出ているのだ。

鉄分は血中のヘモグロビンの中に多く含まれるが、
血抜きが的確に行われていれば、
血液由来の悪臭はそこまで発生しないだろう。

しかし、鉄分は筋肉中のミオグロビンの中にも大量に存在しているのだ。
だから、牛豚鶏の家畜より鴨鹿猪の肉の方が、
誰がどう見ても赤みが強い。

家畜と比べ鉄分の多い野生鳥獣の肉。
それを家畜同様の加熱方法で、
そして仮に100℃以上で加熱したとしたら・・
当然、野生鳥獣の肉は家畜のそれより大量の酸化アラキドン酸を発生させる。
だからジビエは臭うと言われるのだと理解した。

傷んでいたり、止め刺し時に極度に衰弱していたり、発情期だったり。
そういった個体の肉を運悪く食べてしまった人はいるかもしれないが、
ジビエを、特に鹿を臭いと感じる主な理由は血でも肉の管理でもなく、
そこにあるのではないかと思っている。

鹿肉三色丼(火は入っている)

低温調理

低温調理という料理方法がある。
食材の衛生面とタンパク質凝固の問題を考慮し、
凡そ50~75℃程度の温度帯で加熱する方法だ。
焼いたり茹でたりの方法で加熱する方法よりも、
水分を逃がさず柔らかく仕上がる。

では、家庭でこの「低温調理」を再現できるのか?
結論から言うと、フライパンで安定して再現するのは難しい。

ガスコンロ(都市ガス・プロパン共通)の炎自体の温度は、
最も高い部分で1,700℃〜1,900℃。
周囲の空気で冷やされたり逃げたりするため、
熱が全て伝わるわけではない。
が、それでもその高エネルギーを受け、
強火で加熱したフライパンの表面温度は一般的に200〜250℃。
火加減を調整しているつもりでも、
実際の調理時には簡単に100℃を超えてしまう。
すると、せっかく処理した鹿肉でも、あの
“レバーのような臭み”
が戻ってきてしまう。

私自身、最初はフライパンや鍋で何度も試した。
だが正直に言うと「美味い」と言える状態にはならなかった。
更に言えば、
肉の内側と外側の火入れの差が大きすぎて、
見栄えから食感から酷く損なった物ができあがった。

時間とお金に余裕があれば、
その条件でも必死に良い火入れを探求しただろう。
鹿し私は山へ行きたい行かねばならない。
そこで使い始めたのが低温調理器だった。

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一定の温度を保ったまま加熱できるため、
臭みの原因である成分の発生を抑えつつ、
肉の旨味だけを引き出すことができる。

鍋とデジタル温度計でも代用できるが、
温度が下がる度に再加熱が必要で、温度管理があまりに不安定。
自分も何年かはその方法で続けていたが、
低温調理器を購入してからは、
温度が下がれば自動で検知・作動し上昇・維持してくれるため、
その問題が一切なくなった。
とにかく、コンロと自室をいったり来たりしていては、
加熱よりも火災の不安がつきまとい、大きなストレスだった。
そこから解放されたのは大きい。
もっと早く使っていたら、あの時のQOLは爆上がっていた。
もっと気軽に酒が飲めた。
【火加減を気にしなくていい】
というのはそれだけで価値がある事を痛感した。

食肉の加熱温度と時間には、厚生労働省の定めたルールがある。
例えば肉の中心温度が75℃の場合、最短でも1分間は加熱するという物だ。
温度が低くなるにつれ、加熱に要する時間は当然長くなる。
酸化アラキドン酸を発生させないために、この調理方法はジビエ肉に最適だと感じた。

実際に仕留めた鹿は毎年低温調理して、刺身や肉寿司にして試行錯誤している。
肉をラッピングして湯煎で加熱するので水分が逃げ辛くジューシーに仕上がり、
噛む程にシカ独特の風味が口の中に広がり今までよりも美味しく頂けるようになった。
この方法で悪臭など微塵も感じず、
その技術はハムやソーセージにも存分に生かされている。

自然の恵み。
人の知恵。
猟師になって、双方の偉大さに感謝するばかりだ。

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シカの肉寿司

料理
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エセ神戸は小食です意外ですねでもSNSは食い物ばかりアップしています。

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