熊と獣害③

鳥獣被害
弾丸をすぐ取り出せるようにベストを新調した

ハンターの負傷例と警察側の主張①

「駆除なんて一切お金にならないどころか大赤字だ。ボランティアだ。」
このような発言は自身の周囲から数多く聞こえてくるだけでなく、
インターネットでも散見される。

市街地や田畑、人の住まう場所にクマが出没した場合、ハンターはどのように対策をしてきたのか?しなければならなかったのか?
それが気になった。
市や警察の要請を受諾し自らの命を危険に晒した結果、果たしてそれに見合うだけの正当な対価はあったのだろうか?

総務省の東北管区行政評価局が出した、
ツキノワグマの保護管理に関する調査- 人里への出没対策を中心として -
という資料がある。
令和3年9月に作成された物で、
比較的新しい資料となる。

全111ページと相当なボリュームがあるので全ては難しいが、
自身が学びになった点を補足しつつ抜き出す。

令和元年11月20日
【6:05】
秋田県鹿角市の宿泊施設の玄関先で体長約1mのツキノワグマ1頭が目撃される。
通報を受け警察官が現地へ向かう。
実施隊(駆除隊と思われる)のAが目撃現場を確認、クマの痕跡を発見。

【6:32】
Aは口頭で銃器による有害鳥獣捕獲について市町村権限による許可を行った(警察から得た?)。
出没状況について、小中学校や周辺住民にメール配信、広報車による伝達等を行う。

【6:45~7:30】
現着した警官がクマを確認。刺激しないよう動向を注視。
住宅街にクマが侵入しないよう警察車両を配置付近住民へ警戒広報。
警察署、猟友会、市が現地合流し情報共有と対応協議開始。

【7:54】
警察署から現場の市担当者へ
「家屋の様子から跳弾のおそれがあり発砲命令は出せない。」
と伝達し追い払いの方針を提示。

【8:00~】
秋田県自然保護課に電話で捕獲方法について助言を求める。
麻酔使用について助言を受け、北秋田市の鳥獣害担当者に相談したが対応不能との返事。
対応方法定まらず。

【8:30~】
クマが移動。
進行方向について車両と通行人を排除するため体制を整えようとしたが、伝達について困難が生じ、その間にクマを見失う。
現地警戒を継続中にクマが再度出現。
猟友会員が負傷。
負傷した会員は猟銃に覆いをかぶせており、実包(弾丸)は装てんせず。
負傷者発生に加え、クマの移動先にバックストップ(弾丸が獲物を撃ち抜いたり当たらなかった場合に停止させるための土壁等)があったこと、射撃方向に障害物がなかったことから捕獲命令。
猟友会員 3 名でクマ捕獲し廃棄物として処分。

・・・以上が事の顛末となる。
銃は基本的に使用直前まで覆いをしなければならず、
弾丸を込める事も許されていない。
負傷した猟友会員は障害を負うほどの大怪我を負った。


事件後の地方公共団体の意見と警察側の返答は下記。
(地方公共団体)

銃の覆いを外すこと、実包の装てんは命令後に可能となるため、命令されてから発砲するまでに時間がかかり、危険が伴う。銃に弾を込めたままパトロールできないか。

(警察庁の返答)
警職法に基づく命令に従い猟銃を使用してクマを駆除する上で必要であると合理的に認められる範囲で、当該猟銃の覆いを外すこと、
実包を装てんすることが可能。

(この返答は、事件のあった令和元年11月から約1年後の令和2年10月に警察庁から発出された「熊等が住宅街に出没した場合における警察官職務執行法第 4 条第 1 項を適用した対応について」より示されている。)

(地方公共団体)
市職員、警官の知識と経験と防具等装備類が不足しているため、猟友会員に頼ってしまっている。一般職員が負傷せず対応するには限界があるため、ツキノワグマと戦える人材、集団を育成してほしい。

知識があっても適用条件の整理ができない。例示でもあれば警官の方が悩まずに済むかと思う。実際の事故現場では、跳弾による建屋、ガラス窓の破損のために命令が躊躇されたが、結果的に猟友会員が障害を負うほど受傷した。早急な捕獲のための環境整備についてご支援をいただきたい。

(秋田県警察本部の返答)
発砲命令が出せなかった理由は、クマの直近に大きな庭石や庭木があり、跳弾による宿泊施設の客への危険性や打ち損ねた場合にクマが宿泊施設に侵入するなどの危険性が認められたため。また、負傷原因は、猟銃に覆いをかぶせ、実包が装てんされていなかったことのみではなく、事前準備や現場での連携不足など複合的な要因によるもの。

なお、捕獲命令については、「負傷者が発生したこと」から警職法の適用による発砲命令
を行ったのではなく、クマが引き続き住宅街を動き回るおそれがあり、更なる被害が予想され
るなど、切迫した緊急性が認められたため。

銃に覆いを、実包を装てんしてはならないと規定され、鳥獣保護管理法で猟銃の発射が禁止される住宅街では発射できないことから、覆いを外すことも実包を装てんすることもできないとの誤解から生じていると考えられる。
これまでも、住宅街に出没したクマに対する警職法を適用した発砲命令について、その適用
要件、適用事例を警察官に示し、繰り返し教養している

また、関係機関による現場対応訓練の推進により、場面ごとの各機関の役割が確認され、実
際の現場対応にも効果がある。警察では、市町村からの訓練開催要望に積極的に対応している
ほか、訓練未実施の市町村には、訓練実施を働き掛けている。

本事案の発生以降、地方公共団体に装備品の充実を含めたハンターの受傷事故防止に関する
指導やマニュアル作りを要望するとともに、令和 2 年度以降、地方公共団体や猟友会との会議
を通じて、警職法の適用を含めた現場対応訓練を実施している。
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負傷者が発生に関係なく切迫した緊急性が認められた具体的な要因とは何だろうか?
負傷者が発生に関係なく更なる被害予想はできたと思うのだが。

1人の猟師としての個人的な言い分はこうだ。
「では今後は、その効果があるとされる現場対応訓練を徹底的に受け、予測不可能な状況下でも間違いのない的確な判断を迅速に警察側が下せるという事で良いしょうか?これから先はハンターが誰1人負傷する事の無い完璧な安全が保証がされる事で良いでしょうか?」

クマ発見から2時間半以上経過し、どう対策するべきか決定・指示されなかった結果、障害を負う程の怪我を負う?
そしてその原因は猟師側の誤解に拠ると?
冗談ではない。
自分なら絶対に駆除には参加しない。

熊の増減率

ハンターの負傷例と警察側の主張②

平成29年8月23日
【6:25】
岩手県盛岡市でクマによるものと思われるトウモロコシ食害の通報が市に入る。

【8:30~10:00】
鳥獣被害対策実施隊員(猟友会員)1名とともに職員1名出動。
当該地点は民家から離れているが、市民の生活道となっており、ジョギングや畑作業を行っている人がいた。高校や小中学校も近い。
人身被害が発生する可能性が高いと判断、担当携帯から広域振興局環境衛生課へ連絡し、
現場の状況説明。
口頭による捕獲許可を得ようとするも、即答できないとのこと。折り返しの連絡を待つ。
同時に同隊員から他の隊員へ応援要請連絡。

【10:50】
広域振興局環境衛生課から担当携帯に電話連絡有り。あくまでも追い払い活動までの実施とするよう指示が有り(同日訂正、同日付けで捕獲許可を得る。)。
また、猟銃を携行させる必要がある場合は、警察官の指示に従い行動するよう指示がある。

【11:24~12:15】
警察署へ連絡。現場状況を伝え立会要請。警察署員現地着。(パトカー1台、警官1名)
要請を受けた猟友会員9名が到着。計10名
現場対応者一同で協議した結果、遊歩道付近一帯の藪にクマが潜んでいる可能性があったこ
とから、爆竹及び発声による追い払い活動を実施。

【12:26】
追い払い活動開始。

【12:40~12:48】
隊員への人身被害発生。クマ捕殺(射殺)
救急車着。被害者に応急処置。

【13:10~13:22】
救急救命センターに搬送開始。

【15:00~19:00】
救急救命センター着。
4時間に渡る緊急手術を行うことになった。
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事件後の地方公共団体の意見と警察側の返答は下記。

(地方公共団体)
現場にクマが潜んでいないとも限らないため、県に対し、緊急捕獲許可の可否を確認するとともに、警察に現地の立ち会いを依頼。
県からは、緊急捕獲ではなく追い払いにより対応するよう指導。そこで、警察に対し銃の携行について確認を得た上で、銃を携行して追い払いを行うこととなった。

止め刺し(とどめ)が目的で猟友会に参集いただく場合、銃を携行するよう指示。だが出没に
係る現地調査時には携行するよう指示していない。このため、最初からいたハンターは銃を携
行しておらず、後から駆けつけた銃を所持したハンターと2人1組で追い払いを行っていた。
追い払いの終了間際に飛び出してきたクマに襲われた。同行者は銃を携行しておらず、被
害者自身が2発発砲した。

(県警察本部の返答)
本事例は、鳥獣保護管理法第9条第1項の捕獲許可が得られなかったわけではなく、当初は追
い払いまでの活動であったが、その後、捕獲の必要性が生じ、途中から捕獲許可を得ていたものである。本事例では、発砲を前提とした捕獲許可を得ていることから、猟銃の携行等に関する警察判断は不要である。
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銃の携行は警察の指示に従わなければならないという指示があった。
そして追い払いをせよという指示があった。
その結果、猟友会員が負傷したので追い払いではなく捕獲が必要になった。
警察の判断を仰ぐ事は不要だったのに銃を携行しなかった。

???
銃の携行は警察の指示に従わなければならないけれど警察の判断を仰ぐ事は不要???
全く理解できない。

東北以外でも被害件数が多い

獣医師の確保

対策の1例として麻酔銃を扱える獣医師の確保が挙げられている。
ただ、そもそも麻酔を用いてクマを捕獲する事自体への様々な意見がある。
麻酔の使用は箱罠の中にクマが入るパターンでなければ有効な手段とは言えず、その効果が表れるまでの間に生じる二次災害の懸念がある。

秋田市の例で地方公共団体から出された意見が下記だ。
『そもそも、拘束されていないクマに対して麻酔銃を使用して麻酔を行える獣医師等は少ない。麻酔銃は射程距離が短く、また、発砲後、麻酔薬の効果が現れるまでに相当の時間を要し、狙撃されたクマは興奮状態にあることから、射手への反撃や周辺住民あるいは財産への損害など、二次的な被害が発生するおそれがあることから、住居集合地域等における麻酔銃の使用は原則として行わない。』

対応可能な獣医師は少ない

また人里へ降りてくる事が分かっているクマを、わざわざ身の危険を冒して眠らせ山へ戻す事にどれだけの意味があるのか?
「何が何でもクマを殺すな」
という一部の世間から袋叩きに遭う事を分かっていながら、命がけでクマに接近し麻酔を打つ事ができる技量を持った意欲的な獣医師がどれだけいるのだろうか?
そのために割くお金はどうするのか?

麻酔捕獲に関して出された意見の中に、非常に納得できる物があった。

『仕事がないのに技術を磨く者はいない』

その通りだと思う。
ハンターもそういう考え方の人がもっと増えていいと思うのだが。
趣味で始めた狩猟なのに、猟師は何かあったら命を懸けろと言われる事が当たり前なのか?

毎年、狩猟税で大金を支払い続けながら更に時間もお金もかけて、何かあったら自己責任でボランティアを続けていかなければならないのだろうか。
それで猟師の減少と鳥獣被害の増加を嘆くのは不自然な事だと思うのだが。

モニタリング

また、他の対策例としてモニタリングが挙げられており、大きな効果がある事が確認されている。

東北6県では実施方針等を記載し、推計・生息地域の推定・出没情報・人身被害情報・捕獲情報等のモニタリングを実施。
特に地域個体群のモニタリングは、今後の方針の決定・見直しや、年間捕獲頭数が適当な水準であるかの検証を行う等、これらはモニタリング結果を毎年度有識者に報告の上で、各県の実状に即した保護管理に係る方針や年間捕獲数等を決定している。

正直、モニタリングの活用は、
非現実的な対策だと思っていた。

鹿や猪に比べ遥かに少なく遥かに危険なクマを相手に、GPS等を用いて地道な調査をしつつ対策を練る事は相当な手間暇がかかり不可能に近いと考えていたからだ。
予算や技術的な制約や精度面での課題も多く揚げられているが、筆舌に尽くしがたい努力をなさっておられるのだろう。

人とクマとの共生を目指す
日本クマネットワーク(JBN)
からは、クマの生態に関する非常に貴重なデータが示されている。

クマに縄張り的なものはなく、行動範囲は大幅に重複している。そのため、里に魅力的なも
の(農作物、放置果樹、廃果、生ゴミなど)がある限り、それがクマを里に誘引し、出没を加
速させる。

② そのため、同じエリアにある農地に多数のクマが入れ替わり出没して食害を与えている。そ
の様な被害農地では、たとえ 1 頭駆除してもすぐ替わりのクマが現れ、被害は発生し続ける。

里地のすぐ裏山に定着しているクマも多く、誘引物がある限り簡単に出没する。この場合は
主に夜間の行動が活発となる。

④ 一方で、行動範囲が驚くほど広い個体もおり、秋田県には岩手県からもやって来る(普通に往来している)。
つまり秋田県でいくら駆除しても岩手県から補充される可能性が高く、被害

は続く。

対策の一例

本資料を作成した東北管区行政評価局の主張は一貫している。
「地方が有効な対策を打ち出せないでいる。国はもっと状況把握と情報提供に努め、具体的な政策を出すべきだ。」
モニタリングの手法1つ取っても喧々諤々で定まらない中、国としての方針を決めかねている状況のようで、評価局の苛立ちを感じた。

そんな中、鹿角市鳥獣被害防止対策協議会が『ツキノワグマ市街地等出没対応マニュアル』
を作成した。
平素から対策訓練や心構えをしておく事や、実際にクマが出没した際の具体的な対策を記載した物で、関係機関の役割をレベル別で示していたり、チャートも作成されている。
出没を未然防止するための点検シートもあり、これがあれば普段から農家や里山で暮らす人々が利用できる。

すごい。他の地域でも作成されているのだろうか。

こういった資料があれば、警察もハンターも農家も事前学習する事によって、いざという時に出来る事の幅や対応時間が相当変わってくる。
こういった資料は各都道府県で既に作成されているものなのだろうか。
仮にそうであれば、
もっと周知徹底してもらいたいものだ。

毎年、猟期前に配布される資料の中に入れてもらえると良いと思う。

連絡チャート

点検シート

住処と境界線

これから自分は猟期を迎え山に入る。
東北で多発、それ以外の広い地域でも起こる被害やこういった資料を目にしていると気が重くなる。
昨今の狩猟ブーム?により、銃を持った猟師は減ったが比較的容易に取得できるわな免許の所持者は増えた。

これはクマの多い山間部に入って行く人間が増えたという事。
それはつまり、いざクマと出会ってしまい襲われた際、被害に遭い易いわな猟師が増えたという事ではないか。
クマにとってみれば老人も若者も大差ない。
単独で真正面から襲われれば絶対に敵わない事はこれまでの学びで良く分かった。

わな猟師は、
自分を含め単独行動をする機会が多い。

どうか誰1人被害に遭う事無く狩猟を楽しめると良いなと心から思っている。

狩猟免許取得者数推移(東北6県)

【いわて見聞録】クマと人間~住処の境界線~

という動画がYoutubeで閲覧できる。
地域の個体を守るため、やむを得ない場合を除きなるべくクマを殺さず、人里と山の中間に緩衝地帯を設ける事で侵入を防ぐ。

市町村が動きわなを設置すると共に、保育園ではクイズ形式で熊を理解してもらう事で、いたずらにクマを恐れず魅力を感じてもらい住民の理解を得ようと奮闘されている。
今年は岩手で甚大な被害が出ているが、こうした取り組みがなければもっと酷かったに違いない。

岩手大学とも連携。
生態調査に参加していたクマ研(ツキノワグマ研究会というサークル)の学生は、大学を休学し秋田の対策支援センターの職員となった。
どうすれば人とクマが共生できるのか更に知りたいのだと言う。
単に獣害を減らすためだけではなく、クマが好きな事がよく分かるが、その献身と情熱に素直に頭が下がる。

法的な制約。
環境の制約。
本資料は初めから終わりまで、あらゆる制約の中、対策に苦悩する地方の様子が垣間見える。
その苦悩の中で、少しでも世の中を良くするための対策が打ち出され、一部では効果が発揮されてきた。
岩手の学生のような立派な者ではないが、安全に最大限注意し、いつか、何か、1つでもいいから提案できる気づきがあればと思う。

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鳥獣被害
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