【ジビエ料理(という事にする)】鰻丼

料理
筒型仕掛けを持ち川へ(師匠撮影)

夏嫌い

暑いのは苦手だ。
だから夏が嫌いだ。

何も悪い事をしていないというのに、汗が勝手に流れ落ちる。
毎日毎日、衣類が肌に貼り付いて不快だ。

夜はとにかく寝苦しく、
ようやく眠れたかと思えば今度は蚊がやってくる。

昨今の日本人が忘れつつある礼節の心を教えてくれているのだろうか?
静かに接近してきてくれて全然構わないのに、
わざわざご丁寧に耳元まで挨拶にやってきて下さる。
羽が織り成すあの旋律。
あまりの美しい音色に一瞬にして飛び起きてしまい、
なんとか一目お会いせねばと部屋中の電気を点け直す。

こちらもご挨拶しないと失礼過ぎて満足に眠れない。
一度でいいから握手したい。
感謝の心で百式観音の参乃掌を構え続ける。

子供の頃に夢中で捕まえたアブラゼミさんの存在感も凄い。
早朝から合唱合唱大合唱。
多重影分身したジャイアン達が、
連日タダでリサイタルを開催して下さる。

その辺の道端でひっくり返ってロックに永眠されたかと思いきや、
傍を通るとオーディエンスが来た事を察知して穢土転生。
あまりの感動でこちらは動悸が止まらず泣きそうだ。
昨今の日本人が忘れつつある奉仕の心を教えてくれているのだろうか?

ただ気温が高いだけ。
それだけでイライラする自分が、
如何に矮小な存在であるかを虫達から毎年思い知らされる。

だから夏が嫌いだ。

あつい・・

夏好き

夏に出回るソルダムという品種のプラムが大好物だ。
だから夏が好きだ。

緑色の皮の奥には、
真っ赤に染まった瑞々しい果肉が詰まっている。
少々値段が張るのだが、
「(この時期しか手に入らないから・・この時期だけだから・・)」
欲望に負けてもう一箱もう一箱とついつい手が伸びてしまう。
スイカもメロンもパイナップルも好きだが、
甘酸っぱくて歯ごたえのあるソルダムが一番好きだ。

トマト・ピーマン・茄子・ズッキーニ。
野菜もどんどん成長するので安く大量に手に入る。
ベランダのハーブもとんでもない勢いで育つ。
煙たい焼肉にキンキンに冷えたビール。
生産者さんに感謝してもしきれない。

そして夏の鰻が大好物だ。
とにかく好きだ。
貧乏性なのでスーパーでは買わない。
釣った方が美味しいのでスーパーでは買わない。

効きの悪いクーラー。
蒸し暑い部屋。
そうめんやざるそばでどうにかこうにか夏バテ回避に努めつつ、真っ青な空を眺める。
「(次の土曜は釣り日和かな~)」
食後、冷蔵庫で冷やしたソルダムをかじりながらそんな事を考える時間が幸せだ。
それが自分にとって夏の風物詩。

暑いのが苦手なので外に出たいなんて全く思わない。
それでも釣りがしたくて飛び出さずにはいられない。
だから夏が好きだ。

今年も沢山の野菜を頂く

下準備

天気予報を見る。
無風では息をするのも苦しいので風速は少しあった方が良い。
水が濁り警戒心が薄まるので前日には少し雨が降って欲しい。
潮汐表から潮の満ち引きとその時間帯を見る。
潮が動いてくれないと酸素や魚のエサとなるプランクトンが動かない。

「(この日はなかなか良さそうだ)」

好条件が重なると、今度は釣り場の到着予定時刻から一日の行動を逆算していく。
絶好の時間帯に到着したのでは、
同じ事を考えている他の釣り人に場所を取られてしまう。
だから早目に行かなければならない。

そのためには更に時間に余裕を持って、エサのミミズを確保しなければならない。
ミミズはどこの釣り具屋でも売っているが細く高い。
だから事前にミミズが大量にいる場所を把握しておく。

河川敷や山の中の落ち葉や枯れ葉の堆積した場所。
そんな所は涼しく、土も柔らかいのでミミズが好む。
本当に良いポイントであれば、
直径1cmに迫ろうかという大物が沢山いるのだ。
炎天下、スコップで10~20分土を掘り返し続けるのは大変だが、
うまく行けばその短時間で、店で買えば5000円はするだろうエサが手に入る。

鰻釣りが好きな人は大概、ミミズを確保する場所をそれぞれ持っている。
畑を持つ人なんかは土地の一部を使って養殖する人もいるらしい。

過去と現在から得られる情報を元に、未来を予測して準備して対策を打つ。
なるべくリスクを減らし、なるべくリターンの確立を上げる。
釣りも狩猟も似ている。

置き竿の魅力

釣り場へ到着したら竿を出す。
仕掛けはいたってシンプル。

重りと、鰻が飲み込み易いように作られた細長い針を糸に結ぶ。
後はミミズをつけて川へ放り込んで放置するだけだ。
これを置き竿と言い、以降はエサの付け替えを繰り返すのがメイン作業となる。

魚を誘うために竿先を動かしたりする事もない。
アウトドア用の椅子に座って、
Youtubeを見たり音楽を聴いたりSNSで美味しそうな料理投稿を眺める。
その間に魚の反応が無いかチラチラと竿を見る。
待ち一辺倒の釣りなので、他の作業と並行できるのが気に入っている。
竿先に鈴をつけてしまえば、音楽を覗いて本当に他事に集中できる。
何も考えたくなければ空か川かその辺を眺めてぼーっとする。

手持ちの竿は3本。
師匠は10本。
罠と同様、多い方が釣れる確率が上がる。
しかしそんなに釣り具を置いておける場所がない。

そして、川上で竿を出せばミドリガメ・スッポン・鯉やナマズといった外道が増え、
海に近づけば近づく程、ハゼやクロダイといった外道が増える。
外道が釣れ過ぎても処理が大変だし10本もあるとエサの付け替えに時間を要する。
だから3本で毎年勝負する。

鰻は全身が筋肉の塊、大暴れするので針が外れやすい。
竿先が激しくビクビクしなったらとにかく慎重に岸に寄せる。
とてもスリリングで針が外れた時のガッカリ感といったらないが、
その反面、手に入れた時の喜びは計り知れない。

釣り上げた時の釣り人は自分も含め物静かな物だ。
淡々と針を外し鰻をバケツへ入れ、針に新しいミミズを取り付けまた川へ放り込む。
すぐに静寂が訪れる。
しかし釣った本人は内心ほくそ笑んでいるし、釣れない側は悔しがっている。

いつ何が釣れるか分からない。
周りが釣ったら悔しい。
そんな所も狩猟と似ている。

ある夏の日の夕暮れ

蒲焼き

海に近い川下で釣れた鰻に泥臭さはない。
そのため、泥を吐かせる必要はなくすぐに捌いて食べる事ができる。

有名な話だが、鰻の血には毒がある。
60℃で5分加熱すればその毒性は失われる程度。
リッターレベルの量を飲んだ場合が致死量なのでそう必要以上に警戒しなくても良い。
日本国内における食中毒の正式記録もないそうだ。
傷口や目や口の粘膜に触れないように注意を払えば問題ない。
自然毒のリスクプロファイル:魚類:血清毒(厚生労働省データ)

表面の粘液のせいで捌くのが厄介であれば、
お湯にくぐらせると白く固まるので後は包丁の背等でこそぎ落すと作業が楽になる。
円筒状の身をしているため、
慣れないと包丁の先端が身に入りにくく中々綺麗に開く事ができない。
そんな時はカッターナイフを使う。
先端が尖っており突き刺しやすく、切れ味が悪ければ刃を折れば良いだけなので便利だ。

胆のうだけは苦くてどうしようもないので捨てるが、
頭や骨はグリルで焼いた後で味醂や醤油を煮込んで作るタレの中に入れて出汁が獲れる。
肝は吸い物になる。

割った頭と背骨を焼く

焼いた骨と共に砂糖・味醂・醤油を煮詰めてタレにする

串が多すぎた

身に串を打ってグリルで焼く。
焼けたらタレを塗ってまた焼く。
釣ったばかりの魚の身は水分量が多いので煮ても焼いてもホクホクだ。
柔らかく香ばしく焼けた鰻をご飯に乗せてタレを回しかける。
その美味さといったらない。
単純に美味しい事に加え、それなりに戦略を立てて実行した結果、
自分で手に入れたのだという満足感が味の引き立て役になる。

今年は3回目でなんとか釣り上げる事ができた。
食べ終わった後、捌く前に撮影しておいた鰻の写真を師匠に送ると、
すぐに電話がかかってきたので意気揚々と報告した。

「いやー小ぶりだけどやっと1匹釣れました。美味かったです。」
すると師匠は言った。
「俺は毎年80~90匹は釣るかな?まぁ頑張りや。」

・・それ今言う必要ある?

そう思いつつも、見事にその煽り文句に釣られ次の計画を立てるのだった。

至福の時

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エセ神戸は小食です意外ですねでもSNSは食い物ばかりアップしています。

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