ジビエ料理のコストと対価

料理
イノシシのバラ肉

コスト(衛生面)

- ジビエ(giber)とはフランス語であり、狩猟によって、食材として捕獲された狩猟対象の野生の鳥獣、またはその肉を指す。英語圏ではゲーム(game)または、クワォリー(quarry)と呼ばれ、獲物を意味する。日本語には野生鳥獣肉と訳される。畜産との対比として使われる狩猟肉のことである。- wipkipedhiaより

猟師になる前、ジビエ料理屋で鹿や猪を食べた際によく思った。
「(おいしい・・けど高い。流石に量と値段が見合っていないのではないか?)」
実際に猟師として山に入っている今なら、妥当どころか安いとさえ思うのだが、
狩猟という物に触れた事のなかった時の感覚としては、
「(やっぱり高いよ。これなら上質で沢山食べられる牛・豚・鶏の方が良いよ。)」
だった。
野生鳥獣がジビエ料理として食べられるまでにどんな過程を踏んでいるのか?
そこがいつも気になっていた。

「捕獲された野生鳥獣の9割が何かに活用される事なく処分されている」
インターネットでよく見るフレーズだが、この実情は特段変化していないようだ。
しかしその現状が中々改善されず値段も高いのは明確な理由がある。
家畜のように管理できないためだ。

個人的には
「美味しいのは間違いないのだから、
自分で獲れるようになれば格安で大量の肉が手に入るのでは?」
という目論見もあって猟師になり、実際にジビエを年中食べている。
その望みが叶い、もう何年もスーパーで肉を買っていない。

しかしどんな菌が潜んでいるか分からない山の中でしとめられ、
そこで解体して得た肉をそのまま社会で流通させる訳にはいかない。
家族や友人に自己責任で譲る事はできても、販売は禁止されている。
家畜にもリスクがあるとはいえ、鹿や猪は同等レベルで管理されている訳ではない。
ウイルスや寄生虫感染のリスクは当然高くなるので、
食肉として販売する為には専用の解体処理施設で処理しなければならない。
食肉処理業と食肉販売業という許可も必要になる。
家畜レベルとまではいかないまでもトレーサビリティを重視し、

  • いつ
  • どこで
  • 何が
  • どのような状態で

等が可能な限り把握できていなければならないのだ。
その為、
「野生鳥獣肉の衛生管理に関する指針(ガイドライン)
が定められている。
解体に適した道具や解体順序や場所まで指定されており、
それに則った適正な処理をするためにコストが必然的に上がるという訳だ。
家畜でさえ鶏インフルエンザや豚熱によって世界を震撼させている。
野生鳥獣なら安全性はより配慮されている必要があるので対策必須だ。

コスト(肉の量と質)

豚は猪を品種改良して生まれた。
単純に、猪には人間社会を支えるには不十分な点があったからというのが改良の理由だろう。
猪の肉は非常に美味で、豚とは異なる力強い旨味を感じる事ができる。
噛む程に広がるそれは猟師として純粋に喜びだ。
しかし豚のように成長速度が速い訳ではないし大きくもならない。
猪が何年もかけて100~150kgに成長するのに対し、豚は半年でその重量に到達する。
繁殖力もまるで異なる。
食害の面で考えれば十二分に脅威だが、年に子を4~5頭産む猪に対し豚は20頭以上。
一頭が生む子の数も一頭から取れる肉の量も、猪は全く勝負にならないのだ。

栄養価で見てみるとジビエは家畜より優秀だと感じる所が多い。
真夏だろうが真冬だろうが過酷な自然環境の中を生き延びているだけあって、
疲労回復に関わるビタミンB類は多ければ2~3倍。
そして高タンパク低脂質低カロリーで、野生鳥獣は健康に非常に良いと思う。

味や臭いはどうだろう?
生育期間が短く管理された豚は若いまま流通するので、
その肉質は非常に柔らかく風味も味も良いのは皆が知る所だ。
猪は美味だと述べたものの、それは基本的に若い個体を指す。
巨大な猪のオスを仕留めた事があるが、時期的な要因もあり非常に硬くまた臭った。

いかに猟師がその技能を高めたとしても、
家畜ほど安定した品質の肉を手に入れる事はできない。
仕留めた獲物を食べる度、喜びと同時に家畜がどれだけ美味しいかをいつも感じている。
人間の英知。
品種改良というものは凄まじい。

衛生面でも流通量の面でも家畜に及ばないジビエ。
安全に食べられる美味しい肉がいつでも大量に安く手に入る家畜。
命に対する感謝だけでは世の中は回らない事が、
捕獲された鹿の猪の9割が破棄されているという現実の改善を難しくしている。

・・と様々な経験を積み、ようやくジビエ料理の値段に納得する事ができた。

レバーとハツの串焼き(非常に美味だが大量のレバーを全て食べ切るのは難しい)

昆虫食への疑念

世情に疎いためにかなり後で知った事だが、
未来の食糧不足の備えとしてコオロギを食用として普及させるという活動が、
国内?世界的規模?レベルで推進されているそうだ。

野生鳥獣を流通させるには、
その安全性の確保のために専用の処理施設が必要であることは既に述べたが、
そういった諸々のコストを遥かに上回る試算が出ているのだろうか?
繰り返しになるが、
捕獲された鹿や猪の9割が埋設や焼却により処分される中で
なぜコオロギなのかとどうしても思ってしまう。
タフで栄養価が優れているようだが、仮にパウダー状のコオロギが普及したら
「いただきます」
の感覚は、食への感謝だけでなく食べる事の喜びといった意味も含め薄まりそうな気がする。
動物がその命を失う過程や瞬間は全く見ない方が良いのだろうか?
なるべく動物に罪悪感を持たず食事を摂る事は食材に対して感謝している事になるのだろうか?
そんな事を考える。
手を合わせて「いただきます」なんて、
大人になってからほとんど言わなくなった癖に。

自分にとっての狩猟とジビエ

趣味で狩猟を始め、今も楽しんでいる自分としては、
『楽しい狩猟・美味しいジビエ料理』
という観点を軸に興味を持ってくれる人を増やしたい。
猟師を増やす事ができれば・・とまで考えるのは流石におこがましいが、
僅かでもジビエ料理としての野生鳥獣の流通量が増えれば良いなとは思っている。

家畜に及ばない点はいくつもあるが、狩猟を通じて学べる事は山ほどある。

  • 獲物を手に入れるまでの苦労
  • 手に入れた時の喜び
  • 消えゆく命の感覚に対する罪悪感
  • 食べる事への感謝

そういった感情面での学びが狩猟には本当に多い。
それは狩猟を通じて得られる何ものにも代えがたい対価なのだと思っている。
狩猟はただ残酷なだけの行為などではなく、
人として生きるための学びの場の一つなのだと知って欲しい。

シカのハツ

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エセ神戸は小食です意外ですねでもSNSは食い物ばかりアップしています。

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