【ジビエ料理】鹿ハム

料理
サルティンボッ鹿

鹿の体脂肪

「鹿はいらないやー。猪くれよ。」

そんな意見をよく耳にする事は以前にも書いた。
好んで食べる自分からしたらとても悔しい意見だ。

家畜で例えるなら鹿は牛肉の赤身、猪は子孫である豚になると思う。
冬に備え秋口からどんどん体に脂肪を蓄えていく猪。
狩猟を始めるまでは鹿も同様かと思っていたのだが、
猟期(11~2月)に仕留めた鹿を解体すると、
よくこれで越冬できるなと思う位に脂肪分がない。

調べてみると、どうやら猪とは順序が逆の様だ。
鹿は夏場に脂肪を蓄えておき、
その脂肪を消費しながら食べ物の乏しい冬を越す。
だから鹿は夏が美味しいと言われる。

冬場でも、山中にはクマザサ等の一部の植物は豊富にあるため、
4つある胃の中で餌を反芻し発酵させる過程で生じる熱も利用しているらしい。
とにかく暑がりな自分。
真夏に脂肪を蓄え体内で超発熱などされたら間違いなく気が狂うが、
鹿は季節によって体表を覆う毛の密度を変える事で体温調整している。

過去、猟期中に珍しく脂の乗った鹿が獲れた事があり、
それは噂通り美味しい物だった。
ただその1頭だけ。
他は全ての個体が赤身だらけだ。

鹿の後脚 筋膜をトリミングした後

健康目線で考えるなら、赤身だらけというのは良い事ではある。
ただ、
『脂が乗った豚肉と牛肉の赤身。どちらが欲しいか?』
を考えた場合、豚を欲しがる人はやはり圧倒的に多い。
それと同様、皆、鹿より猪を欲しがる。
鹿肉を料理する自分自身がレパートリーに苦戦しているので、
その気持ちは良く分かる。
食材としての汎用性の面ではどう考えても猪の方が優位だ。

しかしやはり悔しいのだ。
猪に対し鹿の生息数は2~3倍。
国内における鳥獣被害の内、被害額が最も高いのは鹿。
森林被害面積も鹿で全体の70%を占める。
野生鳥獣による森林被害
最も多く獲れる鹿をもっと美味しく食べられるようにして消費量を増やす。
そうする事で被害を少しでも食い止められない物か。
それは食資源枯渇・フードロスといったSDGsの観点でも有益な筈だ。
単に鹿肉好きとして言っている訳ではないのだ。
だからもっと洗の・・布教活動したいと常々思っている。

ありがたい事に、自分の狩場では鹿と猪の両方が獲れる。
しかし鹿の方がやはり多く、比率で言えば
鹿:猪=7:3
といった所。

1か月2か月で数10kgの肉を消費しきる事は到底不可能。
保存に適しており、且つ可能な限り美味しい加工肉は何か色々試した結果、
ハムが定番となった。
下記のように、サルシシッチャ(猪ソーセージ)編とほぼ同じ手順で作る事ができる。

①鹿肉を手に入れる

猟師になる選択が無い方はネット通販で購入して頂きたい。
猟師になる選択をした方は雄鹿の角に突き刺されないよう全力で臨んで頂きたい。

②ソミュールに漬ける

砂糖・塩・各種ハーブといった調味料を一度煮立たせてソミュール液を作る。
冷やしたソミュール液にブロック肉を1週間漬け込む。
(肉から大量にドリップが出て液全体の粘度が酷い場合は新しく液を作り漬け直す)

③塩抜き

真水に数時間晒して塩抜きする。
塩の抜け具合は都度、肉の端を切り取って加熱して食べて確認する。
保存といった面では塩分濃度が高い程良いが、塩辛過ぎては食べる楽しみが損なわれる。
かといって水に晒す時間が長くなる程、
鹿肉本来の風味や旨味が失われて行き、食べる楽しみが損なわれる。
その辺りは調整が必要だ。

④吸水・湯煎

猪よりも脂肪が低い分、ソミュール液を吸いやすいのか、
体感的に鹿の方が漬け込み後の身の水分量が多い気がする。
その分、肉の脱水に要する時間が長くなる訳だが、
長時間放置し続けるのは衛生面であまりよろしくない。
そういった時は、吸水シートを利用する事で時短している。
ペット用のおしっこシートもよく使う。
肉表面の水分が粗方吸収できたら、ビニール袋やジップロックに入れて湯煎にかける。
加熱はどうしようか?

  • 沸騰した100℃のお湯で加熱すると、
    酸化アラキドン酸というレバー臭が大量発生し肉も収縮し硬くなってしまう
  • 厚生労働省が推奨する食品の加熱温度と時間の目安の1つは75℃で1分
  • 一般的に用いられるビニール袋の軟化温度は低くて80~90℃、融点は110℃以上

上記条件に加え、家畜より危険性の高いジビエ肉を扱っているという点も考慮に入れ、
自分の場合は75~80℃で30~40分加熱。
加熱後は寒風に晒し急速冷却させる事で、
最も雑菌が繁殖しやすい30~40℃の温度帯を一気に通過させている。

後は食品用の除菌スプレーをかけてパック詰め。
冷凍庫に入れて完了だ。

上:切ってから2分経過
下:切った直後

ハムの多様性

鹿肉は鉄分を非常に多く含む。
そのため、肉の外側は加熱工程時に黒ずんでしまう。
また内部も切った直後は若干黒っぽい。
しかし数分放置するだけで、断面は空気と反応し酸化する事で鮮紅色へ変化していく。
そのコントラストを個人的に気に入っている。

長期保存ができて、解凍すればすぐに削いで食べる事ができる。
サンドイッチやサラダにも当然合う。
文句なく美味しく楽しんで食べられる食材だと思う。

鹿ハムサンド

脂の乗った鹿肉が美味しかった事は間違いないが、
実は鹿の脂肪分は融点が非常に高く55℃もある。
猪の脂(融点28~30℃)よりも人間の体温よりも遥かに高く、
そのため消化によろしくないという記事を幾つか見た事がある。

『脂がない』
その事で生じるメリットもデメリットも理解した上で、
もっと美味しい物を作りたい。

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エセ神戸は小食です意外ですねでもSNSは食い物ばかりアップしています。

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